引用:2017 Twentieth Century Fox Film Corporation
ものっそい影響されやすいタイプなんです。わたくし。
先日『グレイテスト・ショーマン』を見てから、ずっと家でも挿入歌を歌ったり、ステップを踏んで気持ち悪がられております。
それだけ人の心と体を動かしてしまうエネルギーがあるミュージカル映画『グレイテスト・ショーマン』を、前半はなるべくネタバレなしでお送りしようと思います。後半は…無理かも。
ミュージカル映画って…
個人的には大好きなミュージカル映画なんですが、違和感を感じることもしばしば。
「ミュージカル」はそもそも音楽やダンスを融合させた演劇のことです。
そして「ミュージカル」が見たいなら劇場に行けばいい。
でも「ミュージカル映画」となると、はて私は一体何を見に来たのだろうか、という疑問が浮かぶことがあります。
心では(これはミュージカルなのだと)理解しているはずなのに、唐突に公衆の面前で歌ったり踊ったりしだすとクスリと来てしまう、そんなミュージカル映画もあります。
だからこそ、自分の中で良いミュージカル映画というのは、
歌やダンスに必然性があって、もしそれが少々欠けていたとしても、映画でしか体験できない独特のカメラワークやCGによる豪華な演出、画面いっぱいに広がる俳優の表情でカバーできる映画。だと思っています。
そして、その観点からすると、本作は満点、大満足の出来でした。
ネタバレ無し難かしい…
まずは予告編をどうぞ。
作品自体が偉大なSHOW
まず本作は、実在した偉大な(グレイト)興行師(ショーマン)であるP・T・バーナムを描いた時点で勝ち組です。
つまり、題材がサーカス、見世物をごった混ぜにした、なんでもありのショウなのですから、登場人物たちが突然歌ったり踊りだしたりしても違和感0。
この映画自体が、地上最大の、そして偉大な興行師による偉大なショウなのです。
そして、作品内で歌い、踊るのは、ショウの参加者と関係者のみというのも良かったと思います。
歌や踊りで自分というものを表現する権利に浴するのは彼らだけです。
むしろ、怪物と揶揄され、嘲りと嫌悪の目で見られた彼らの唯一の自己表現手段が、歌であり踊りだったのです。これこそ、ミュージカル映画に必須である、歌とダンスの必然性だと思っています。
クライマックス・サプライズ
ネタバレ回避の為、よくわからない造語を連呼しますが、鑑賞後に見ていただけると理解していただけると思います。
本作はP・T・バーナムの苦悩と成功、そして挫折が描かれます。ということは、物語にも起伏があって、クライマックスではドカンと打ち上がるような感動のフィナーレがある…
とお思いですね。
たしかに良い幕切れだとは思います。
エンターテイメント性に満ち、感動のフィナーレと呼ぶにふさわしい大団円を迎えるのですが、鑑賞後どこで一番心を動かされただろうか、どこがクライマックスなのだろうか、と自問自答してみることをオススメします。
力強い登場人物たちのメッセージを一番強く感じたシーンはどこだったか。
どの歌に心を打たれたか。
思い返してみると、本作はそこまで明るい未来を描いた映画じゃないんじゃないかとさえ思えてきました。
伝説の興行師バーナムの半生を描いた伝記的な映画だとすると、薄く荒削りなストーリーは不十分ですし、フリークスをまとめ上げた彼の手腕も評価できない。フリークスの未来が前途洋々か、と聞かれると素直には頷けないし、問題の解決と本作のテーマが干渉し合わないのも気になります。
たしかにハッピーエンドなんだろうけど、そのハッピー(幸せ)が全世界共通のものかと言えば全然違います。
問題を提起するだけして、解決がうやむや、具体の方策や建設的な議論を端折ってます。
ここらへんに今の社会が抱える問題も見え隠れしますねえ。
MeTooとThis is Meは、案外近いところにあるのかも。
だからすごく惜しい映画です。
たった一本の映画で、人類が抱える闇や問題を解決してほしいなんて思っていません。でもそのヒントになるような作品だったら、なお評価は高かったと思うのです。
まあエンターテイメント性だけで、ここまでの高評価が得られるというのも十分凄いんですが…
フリーク(奇形)を扱った映画として
ややストーリーの核心に触れます
人とは違う外見を持って産まれてきた人々。
醜悪で奇怪だと言われた人々。
19世紀のアメリカでは、肌の色が違う黒人も、現在よりもっと酷い、見た目による差別の対象になっていたようです。
そして、本作では、バーナム自身やジェニー・リンド(レベッカ・ファーガソン)などの社会的立場の低い人間と、見た目の違いから差別される人間が一緒くたに描写されているのがモヤモヤ。
ゼンデイヤ演じる黒人ダンサー・アンの台詞がとても印象的です。
ちょっと詳細は忘れましたけどね。
自分たちのことを好奇な目で見るあの目線は、普通の人にはわからない、的な台詞だったと思います。
それを言われたフィリップ(ザック・エフロン)の表情もまた印象的。
真理過ぎて言い返せなかったのか、言い返せない程の哀しみを感じていたのか。
それでも、何も言わなかったことがとても哀しかったです。
やっぱり感じれないんだ、と。
もっとスケールを小さくして、嫌なことを言われた時のことを考えましょう。
言われた方はとても傷つき腹が立つ。でも言った方は、悪意も無いし、相手を傷つけた理由も腹を立てている理由もわからない。
この両者の溝を埋めることは叶わないのかもしれない。
そんな、単純だけど非情な現実をまざまざと突き付けられた気がしました。
作中でも社会的な立場が低いバーナムとジェニーは、同じ境遇・同じ苦悩を共有し同じ目的のため共感するわけです。
でもバーナムがサーカスのメンバーたちを心を通わすシーンはほぼなかった。
バーナムが彼らに見せる笑顔にどんな意味があったのか、それを推し量るのはとても難しいことでしょう。
エンディングのバーナムの行動も、問題を問題のまま放っておくように思え、やっぱり解り合えないのか、と落胆しました。
ただ、この演出すら意図的なものかもしれないと思っています。
つまりバーナムは主役ではない。
そして、それをヒュー・ジャックマン(バーナム役)も知っていたのではないか。
彼は、レディ・ルッツ(キアラ・セトル)をはじめとするサーカスのメンバーたちが自己を表現するための引き立て役にすぎなかったのかもしれません。
その企みは、魂のこもったThis is Meを見れば見事に成功していることがわかりますし、それを証明するかのようなパワフルな動画も見つけました。
是非鑑賞後にご覧ください。(ストーリーのネタバレはありません)
The Greatest Showman | "This Is Me" with Keala Settle | 20th Century FOX
おわりに
本作は、時代の流れとリンクするところが多く、「今観ておくべき映画」の一本だと思います。
鑑賞後にいろいろ調べていると、実は歌っている人と演者が違うとかもあるんですよね。見た目重視であることを隠しもしない、強烈に皮肉が利いた演出にも思えます。
ダンスもスタントじゃないかと疑いたくなるシーンもあって(マジならゴメンナサイ)、一筋縄ではいかないミュージカル映画でした。
とはいえ、そんなに色々感じる必要もない映画だとも言えます。
とにかくエンターテイメント性重視で、素晴らしい楽曲たちに彩られた、圧巻のパフォーマンスだけでも観る価値は十分にあります。
ミュージカル映画だから観に行く気が出ない?
いやいやこれは、グレイテスト・ショウですから!!
では!