海外ミステリを読むなら、まずはこの一冊

先日、定期購読しているブログ『ゴロネ読書退屈日記』のゴロネさんより、こんなコメントをいただいた。

 

海外ミステリーを読むなら、まずはこの一冊を読んでといった作品があれば教えてください。

 

海外ミステリの感想ブログを運営しているものにとって、まさに光栄の至りとも言える質問に、私ねこは興奮した。

1時、2時になっても寝れない。

ついにきたか、この審判の日が。私が一端のミステリ愛好家か、そうでないかが白日の下にさらされる日が…

 

 

仮にこういう質問が来た時に、堂々とミステリ玄人らしく、はきはきと、胸を張って、どや顔で、ほくそ笑みながら、鼻持ちならない顔で、あくまでも謙虚に、かつ力強く、好感度は高めに、媚びず、へつらわず、

 

『まずは○○を読んでください!』と言える訓練は日々してきたつもりだった

 

 

しかし現実はそう甘くはない。

甘くないのは現実か自分か…

思考が一時停止してしまった。

そもそも、読書数が圧倒的に少ないのだ。

たった200冊程度では、さすがにデータ量としては少なすぎる。

しかも、単純にベスト1を提示すればいいわけじゃない。生涯ベストがそのまま、『まずは○○を』となるわけでもない。

 

これは、ちゃんと他人にお勧めできる海外ミステリの基準を精査する、良いチャンスなのではないか、と思ったので、とりあえず目の前のワインを飲み干し、思うがまま綴ってみようと思う。

 

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ここまでが昨日の深夜の話。

睡魔に負け、落ちるように布団に沈んだ。

朝起きると、ワインの飲みすぎか顔(リンパ?)がパンパン。

急いで病院へ行って薬を処方してもらった。

 

薬を飲んで数時間で、ほぼ顔は元に戻った。

医者ってすごいな、薬ってスゴいなと痛感したと同時に、

この書きかけのことを思い出した。

せっかくいただいた機会だ、ちゃんと考えてみたい。

 

 

 

初心者向けオススメ海外ミステリ10選とかにするのはダサい

 

「一冊」と聞かれて、勝手に10冊も挙げてしまうのは結構ダサい。

たしかに読者の心にヒットする確率は上がる。

しかも紹介する作品はどれも一級品で、唯一無二で、どれも一つには絞れない。

作品ごとに特徴も、雰囲気も全然違うし、同じ判断基準で評価できない。

ホラーテイストが好きなら○○が…がちがちの本格が好きなら□□が…ユーモア満載のがいいのなら▲▲が…となって当たり前だと思っている。

 

ただ今日は、そんな保険をかけまくっている自分に喝を入れたい。

「海外ミステリを読むなら、まずはこの一冊」という超難解かつ有意義な質問に対する、自分の答えの導き出し方を記しておきたいと思う。

 

 

 

過去記事でも何回も言及してきたかもしれないが、

まずミステリとは、謎とその解決が中心となった作品であること

そこを第一条件としたい。

作中になんらかの謎があり、その謎と解決を中心に物語と登場人物たちが動き回る。

つまり謎・解決が太陽で、ユーモア描写やロマンス、キャラクターの特異性は、地球や火星などの惑星なのだ。

それら全ての要素を煎じ詰めれば、最後にはやっぱり魅力的な謎と、驚愕の解決が残っている。

そんな海外ミステリを紹介したい。

 

オススメ、という観点で言えば、

起こる事件は必ず殺人が伴うものを選びたい

 

世に出ているミステリの多くは、殺人が題材になっているはずである。殺し方やその動機の組み合わせだけでも多彩で、同じ目線でいろんなミステリを眺める助けになると思う。

ちなみに私が所持しているミステリも、その90%強が殺人を扱っている。

 

そして最後が、私が最も焦点を当てたいポイント。

それが正統(オーソドックス)であることだ。

正統(オーソドックス)だと思うポイントは以下の三つ。

 

探偵と語り手(ワトスン役)がいる

ミステリの始祖と言われるポーのデュパンを筆頭に、名探偵という存在はもちろん、語り手が登場する作品をまずは読んでほしい。歴史な観点以外にも、読者目線という立場でも入り込みやすい。

 

事件が未だ起こっていない

事件が起こるまでを楽しめるかどうかも重要なポイント。開幕の時点で事件がすでに起こっており、情報を後追いできるのは、ある程度ミステリに読み慣れてから。

ただ事件がすでに起こっているからといって邪道だとは思っていない。事件が起こるまでのドキドキをぜひ味わってほしい。

 

勧善懲悪であること

ざっくりとした説明になるが、とにかく犯人には悪であってほしい。決して犯人がわかりやすい悪でなくても良い、ただ探偵サイドはそれら悪を憎む存在であってほしいのだ。

作品によっては、ここらをイジってトリッキーな作品に仕上げているものも多いため、正義が悪を倒すという構図を守った作品を進めたい。

 

 

そのほかに押さえておきたいポイントがいくつかある。

 

長すぎない

これは物量である。1ページあたりの文字数や書き口によって大きく変わるが、自身の経験上、文庫本で300ページ未満の作品はおおむね読みやすい。

ただたとえ300ページ以上あっても、ハヤカワ文庫のクリスティシリーズなどは1ページあたりの文字数が少なめ&文字サイズが大きいので、かなり読みやすいものもある。

あと持ち運びやすさや手に取りやすさも含めて文庫本をオススメしたい。

入手しやすい

これはオススメするときに考慮したい。

せっかく読んで欲しくてもすでに絶版で、中古で手に入れようものなら数千円〜するものは中々勧めにくい。

例えばアントニー・バークリーのデビュー作『レイトン・コートの謎』は、歴史的にも貴重な作品だが、いかんせん国書刊行会の本を手に取る機会が少ない。

その点アガサ・クリスティの作品なんかは、ハヤカワ文庫からシリーズ化されているので手に入りやすいはずだ。

 

まとめると

「海外ミステリを読むなら、まずはこの一冊」を選ぶとしたら

探偵と語り手がおり、事件が未だ起こっておらず、物語がたどる筋は勧善懲悪なオーソドックスなもので、本の物量は控えめ、かつ入手しやすい文庫本

の中から探したい。

 

 

ということで、

今回質問をいただいたゴロネさんには

アガサ・クリスティのデビュー作『スタイルズ荘の怪事件』をオススメした。

www.bokuneko.com

 

これが正解かはわからない。そもそも正解なんてないのかも。

もしかしたら、とんでもなく面白くなくて、一人の未来のミステリファンを殺してしまったかもしれない。

もっと名作はたしかにある。文字通り頭をガツンといかれるような衝撃作も多い。

 

ただ、クリスティの『アクロイド』や『オリエント』『そし誰』

クイーンの『X』『Y』

といった歴史的傑作の前に、まずはこの一冊を読んでおけば、重厚なコース料理の前のアペリティフ(食前酒)のように、食欲を刺激・増進させ、一見とっつきにくい海外ミステリへのひとつのきっかけになるのではないか。

 

 

 

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ということで、今回様々な観点からオススメの一冊を選ぶきっかけをいただいたゴロネさんには深く感謝したい。

ゴロネさんはシャーロック・ホームズを読んだことがある、ということだったので、あとは自分のオススメポイントさえブレないようにして一冊を選ぶことができた。

 

ただ、人によっては全く海外ミステリを読んだことがない人や、ホラーテイストが苦手な人、ハードボイルドタッチが好きな人、など様々な好みがあると思う。

そんなミステリ初心者たち一人ひとりに合ったオススメの一冊を紹介できるくらい、まずは経験値を増やしたい。そして、各自に適した処方箋を出せるような、ミステリファン界における薬剤師を目指したい。 

いや処方箋を出すのは医者か。

そもそもミステリファン界ってなんだ。

ミステリファンにリアル薬剤師もリアル医者もいるだろうに。

 

だいぶ午前中の病院に引っ張られているみたい。

では!