バランスのとれた絶妙な中編ミステリ【感想】ジョン・ディクスン・カー『第三の銃弾』

発表年:1937年

作者:ジョン・ディクスン・カー

シリーズ:ノンシリーズ

 

まずは

粗あらすじ

退官した老判事が自室で射殺された。撃たれて間もない銃を握りしめて呆けていたのは、かつて判事に極刑を命じられた男だったが、判事の命を奪った銃弾は男が持っていた銃から発射されたものではなかった。不可解な密室状況と、三つの銃と銃弾が指し示す、狡知な犯人の正体とは!?

 

   中編とはいえ、事件の重厚さ、不可能状況の強固な設定のおかげで、ページ数以上にボリュームと満足度を感じるミステリだと思います。

   俯瞰で見てみると複雑難解な事件なのですが、読み進めてゆく中では、手がかりが丁寧に整理され、登場人物たちも細かく描写されているので、ごちゃごちゃした印象もなく、カーの作品にしては、すっきりと読み易い作品なのではないでしょうか。

 

   密室状況の解明と、第三の銃弾の真意を探ることが基軸になっているものの、登場人物たちの言動から得られる手がかりも豊富で、トリックに対するサプライズというよりも、カーのストーリーテリングの巧さを改めて感じます。

   また、カーにしては珍しく?ありきたりなはずのキャラクターの書き分けもしっかりできており、事件が辿る結末にも、しっかり絡んだ構成が面白いです。それらは、同時にミスディレクションも機能を果たしていて、読者を翻弄する小気味良い要素にもなっています。

   正直、欠点らしい欠点の見つからない名作中編です。

 

 

 

 ネタバレを飛ばす

 

以下超ネタバレ  

《謎探偵の推理過程》  

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

 

   ホワイトがかなり怪しいな。アリバイの強固さもそうだが、真の不可能犯罪の犯人とは、こういう人物の気がする。あんまり先入観を持ちすぎるのは禁物だが、最有力容疑者なのは変わらない。そもそも復讐のため実際に殺人を犯そうとした、というだけで根っから悪人なのは間違いない。


肝心の密室トリックの中身を整理しておこう

 

  1. ホワイトの撃ったと見られるリヴォルバーの弾は被害者から外れ、壁にめり込む。
  2. もう一発のブローニングは部屋の後方から撃たれたが、弾の所在は不明
  3. 判事の命を奪った空気銃はキャロリンの部屋から見つかったがその経緯も不明
  4. 部屋は完全な密室でホワイト以外の者が出入りする余地は無い

 

   これで大体真相に見当は付きそうだ。つまり、

  1.    ホワイトはブローニング、リヴォルバーの両方を撃つ。片方は外れ部屋の壁に、もう一発は開いた窓から外に向けて撃った。
  2. 共犯者が外から中にいる判事を空気銃で撃つ。

   これだけで密室の謎は解ける。ただ、窓を開けたのは生きていた判事本人だったし、その瞬間に狙撃できたかは怪しい。さらに共犯者についても、あやふやなところが多い。

    例えば、アリバイに怪しいところのあるトラヴァース卿も外せないし、アイダも鉄壁ではない。キャロリンもアリバイはないが、これは真犯人の策略か。

   問題は、トラヴァースのアリバイが怪しすぎる部分と、アイダにしろ、キャロリンにしろ動機が思いつかないところ。やはりアイダ目当てのトラヴァース卿がホワイトと結託したのか。

   しかも彼は弁護士だし、ホワイトが疑われても証拠不十分で無罪になると計画していたのかもしれない。これで行こう。

 

推理予想

アンドルー・トラヴァース卿&ゲイブリエル・ホワイト

結果

引き分け

   密室トリックに関しては、ほぼ正解。多少消去法で真相が見え易くなっていたり、犯罪の瞬間(ペイジの目の前で判事が撃たれた)の描写が弱い気もしますが、事件自体の構成はよくできています。

   特に実行予定だったゲイブリエル自身ですら事件の真相に気付かずに、当初の計画通りその場を取り繕うことしかできず、結果として図らずも堅牢な不可能状況が出来上がってしまう、というある意味偶然の要素が素晴らしい効果を発揮しています

 

 

ネタバレ終わり 

   最近“偶然の要素”というワードを多用している気がします。実は、この偶然の要素については、いつかブログで記事にしてまとめたいな、と思っています。決してご都合主義でも運頼みでもなく、謎とその解決に多大な影響を与え、ミステリと切っても切れない、そんな偶然の要素。

   まだまだ読了本も少なく、データ不足ではありますが、少しずつ系統立て考察してみたいです。さ、先に書かれたらどうしよう…

 

では!