母親とミステリ

   先日の記事でも書いたとおり、私の母親は離婚後たった一人で私を育ててくれた。

 

もちろん一定の感謝はしているつもりだが、心の大部分を占めているのは「当たり前だろ」という捻くれた感情である。スマホの登録も「親」だし、何年も名前はおろか「おかん」とも呼んでいない。なんでこんなに歪んでしまったのか、まぁ原因に思い当たらないでもないのだが、今更矯正できる気もしないし、そもそも今日の記事には関係ないのでまた機会があれば書こうと思う。

 

   母親は私の友人曰く「天然」だそうだ。母親とのメールのやりとりを見せたり、エピソードを話すと、たいていは「天然やな」と感想が返ってくる。私自身は「天然」というよりかは「アホ」だと思っているのだが、笑わされることも多く、少なくとも不快な感情は起こらない。

   月に一回程度顔は合わすし、良好と言って良い関係だと思っている。今日はそんな母親の不可思議な行動を紹介しよう。

 

 

   あれは私が中学生のころだった、夏休み中のクソ暑い日、外で友人たちと野球をして帰ってくるが、当然母親は仕事でいない。冷蔵庫を開けキンキンに冷えた麦茶を探す。が、よりによってそんな時に限って麦茶がない。どこかに、カルピスの原液が置いていないかと冷蔵庫を閉めようとしたその時、冷蔵庫の扉上部(よく生姜やわさびのチューブが置いてあるところ)にひっそりと隠れている半透明の円筒型のケースが目についた。最近の若い人はあまり知らないかもしれないが、カメラのフィルムケースである。

   何故こんなものが我が家の冷蔵庫に?中には何か入っているようで、薄らと物体の影が見える。フィルムケースを手に取り、振ってみるとカラカラと音がした。

   そして、蓋を開ける前にケースを回転させると、3cmほどの長さのセロハンテープが張ってあり、そこに驚愕の文字が書かれていた。

 

隕石

 

 

隕石   惑星間空間に存在する固体物質が地球などの惑星の表面に落下してきたもののこと。

   蓋を開け、中身を掌に転がすと、直径2cm程の小さな暗黒物質が出てきた。ほんの小さな石ころのように見えるが、見かけからは伝わらないずっしりした重みを掌に感じた。さすが隕石だ。臭ってみると長期間冷蔵庫に入れられていたせいか、始めは様々な食材の臭いが染みついているように感じたが、そのうちに大気圏突入時に超高温で熱せられ融解した未知の金属臭のようなものも感じられてきた。さすが隕石だ。

   その後ぐわぁんと体中を駆け巡る小宇宙(コスモ)を感じ、ニュータイプの覚醒時のような光速で星の流れる光景が脳裏に浮かび、星々の鼓動が体の芯に響いてきた(ような気がした)。こんなド田舎の貧乏人が住む公営住宅の3階で小宇宙(コスモ)のエネルギーを感じるとは。

   これはもうミステリではないSFである。

   厨二病真っ只中の私には、毒気が強すぎたようで、すぐさま母親に電話を掛けた。

 

「おい!うちに隕石あるやん!なんで?どこで手に入れたん!?」

   母親はケラケラと笑いながらこう言った。

 

「あああれ?こないだ仕事中(トラック配送業)に工事現場横通ったんやけど、石がバアーンて飛んできて窓ガラスに当たってガラス欠けてん。やからムカついて隕石って書いてケースに入れたんや。」

 

   ふふん。

   間違いないこれだ。

加熱アスファルト混合物 最も一般に使用されているアスファルト混合物で、「アスファルト・プラント」と呼ばれる加熱装置内でアスファルトと骨材を加熱・混合して熱いうちに作業を行い、冷えれば道路としての強度が得られるもの。

 

   たぶんあの時ほど母親を恨めしく思った日は無い。あながち私が歪んだ理由は、あの隕石のせいだったのかもしれない。

 

 

では。