ミステリに登場する代表的な洋服といえば、夜会服だろう。
我々労働者階級にはなかなか馴染みのない夜会服。字面だけを見て想像するなら、夜会に着ていく服、つまりはパーリナイッだ。パーリナイッに集うパーリーピーポーたちが着ている服、それが夜会服なのだと思う。
想像と現実の格差は凄まじく、知的水準の高い方は、夜会服が、そんな淫らに乱れたパーリー(あくまで想像です)に着用するものではないことをご存知だろう。夜会、つまりは西洋における舞踏会に着ていくフォーマルウェア、それが夜会服である。日本での認知度で言えば燕尾服やタキシードが夜会服に相当する正装らしい。
たぶん私は人生で夜会服を着る機会なんてこないとは思うが、ミステリを読んでいると、こちらから着るのは遠慮したいと思わせられる。なぜなら、数多くの海外ミステリの中で、夜会服を着ている人物が殺したり殺されたり、容疑者だと疑われたりしているからだ。某有名作品では、殺害現場と手がかりのシルクハットを関連づけただけで、夜会服を着ていた人物が犯人だと仮定されていた。夜会服を着ただけで首にお縄がかかるなんてとんでもない貧乏くじである。
少し夜会服にこだわり過ぎているが、もしあなたが男性で、仮に殺害現場に偶然居合わせた場合、同じ目線で見るとスーツがとても危険だと言える。その理由は小物の多さである。ネクタイ、ハンカチ、ネクタイピン、カフスボタンなどは着脱のリスクが多く、現場に遺留品として残る可能性が高い。そうなれば現場にあったというだけでスーツ姿のあなたが疑われるだけでなく、犯人に利用される可能性も十分ある。もしあなたがどうしてもカッチリした会に出席しなくてはならず、その場に殺されそうな人物が参加するなら、残念だがスーツは避けるのがベターだ。
だがそうも言ってられない。仕方なくスーツを着用する場合は、なるべくクロークルームに貴重品以外の小物は預けておくのが定石だろう。
カフスボタンなどはカッコつけたい気持ちもわかるが、ここは自分の命を優先させ外しておくのが吉。
ネクタイも小学生がつけるようなワンタッチ着脱式のものしかできないなら今すぐに練習した方が良い。プレーンノット・セミウィンザーノット・ダブルノットの3つは目を瞑ってでも出来るようにならなければ、殺人鬼だと疑われても申し開きは立たない。
スーツの色はブラックがオススメだ。血痕が付着しても気づかれにくい。グレーがデンジャラスなのはあえて言うまでもない。
以上がミステリな状況に遭遇した際の服装における注意点だが、そもそもあなたが江戸川コナンや金田一一の近縁者じゃない限り、殺人事件に遭遇する確率なんて万に一つもあるとは思えない。
だが、油断することなかれ。もしあなたの身近に死の災厄が降りかかった時、後悔してからでは遅いのだ。死神の魔手から逃れる方法はないかもしれず、対応策も予防止まり。それでもこの記事が誰かの救いにならんことを切に願う。
では。