原題も邦題もどちらもセンスがある作品【感想】モーリス・ルブラン『奇岩城』

発表年:1909年

作者:モーリス・ルブラン

シリーズ:アルセーヌ・ルパン4


本作はルパンシリーズの中でも屈指の知名度を誇る作品の一つに違いありません。

今までシリーズを読んだことがない私でも、『813』や本作『奇岩城』はどこかで聞いたことがあるタイトルでした。

しかし、個人的に「奇」という漢字からは、気持ち悪いどこか不快なイメージを受けます。私だけでしょうか?

 

原題は『L’Aiguille Creuse(エギーユ・クルーズ)』で直訳すると『空洞の針』となり、なんともフランス語らしい軽やかな韻が特徴的なタイトルです。

一方『奇岩城』からも独特の雰囲気は感じ取ることができ、『KIGAN-JYO』とかにしてみると、なんともアメリカ人が好きそうな日本の城って感じが漂ってきます。

 

余談はほどほどに早速ストーリーの感想といきましょう。

まず本書最大の特徴について語っておかなくては先に進めません。本作はもちろん『空洞の針』もとい『奇岩城』のフレーズが指し示す秘密の解読を中心に進みますが、序盤はミステリ短編と見紛うばかりのトリックを用いた殺人事件が起こり、中盤以降は暗号解読を軸に冒険風味の展開を見せます。

 

そして全ての中心にいるのが、本作第2の主人公と言ってもいい、高校生探偵イジドール・ボートルレです。高校生探偵と怪盗紳士という構図は、どこか名探偵コナンと怪盗キッドを彷彿とさせるものがあります。

このイジドール少年、ガストン・ルルーの『黄色い部屋の謎』(1907)に登場するルールタビーユ少年と設定がそっくりということもあり、作者のルルーと揉めたとか揉めなかったとか

真偽はともかく、頭脳明晰ながらまだ子供っぽい性分などには好感が持てます。そして、たぶん一回り以上は年が離れているであろうルパンとの一騎打ちも見どころで、尊大で自信過剰すぎるルパンにイラッと()はするものの、どこか良き兄貴分としてのルパンの人物像も感じ取れるなど、二人の関係性が物語の良いアクセントになっています。

 

残念ながら、核になる暗号解読については暗号文がフランス語で書かれているせいで、全くピンときませんでした。たぶん英語で書かれていても、わからなかったと思うけど…

 

また、暗号の出自にともなう歴史描写も濃厚で、少しでもフランス史に興味がある読者なら作者の遊び心にニヤリとする人もいると思います。

作中に登場する盗品の一つに、あの世界的に有名な絵画『モナ・リザ』があるのですが、本書発表の2年後に実際にフランスのルーヴル美術館から『モナ・リザ』が盗まれたそうです。しかも逮捕されたイタリア人清掃員の動機が、“レオナルド・ダ・ヴィンチ(イタリア人)が描いたものだからイタリアに収蔵されるべきだ”という愛国心からだったというから、同じように愛国心を持つルパンの影響があったと疑うのは当然です。

 

また、当然の如く変装やロマンスも盛り込まれていて、要素の多さにも目を見張ります。

感想書きは要素が多すぎてまとまらなくなってしまいましたが、本作は綺麗にまとめられているので安心して読んでください。

そ、そういえばシャーロック・ホームズも出てるよ。下手くそか!

 

では!