ブラウン神父の秘密【感想】G.K.チェスタトン

 

発表年:1927年

作者:G.K.チェスタトン

シリーズ:ブラウン神父4


童心』『知恵』『不信』に次ぐ第4作目『ブラウン神父の秘密』ですが、シリーズ作品の中では唯一、プロローグとエピローグという形で書かれています。

プロローグである「ブラウン神父の秘密」では、フランボウの屋敷を舞台に、ブラウン神父が如何に種々の犯罪を解決できたか神父自身の口から種明かしがなされます。

そして2章以降、その解決法を用いた実例が語られ、最後にまたフランボウの屋敷に帰ってくるというなんとも味わい深い構成になっています。

 

もちろん作品の特徴である逆説的な表現や心理を鋭く突く警句などは健在で、深く考えさせられる作品も多いのですが、本作では宗教的な要素がより一層濃くなっているように見受けられました。

別に特定の宗教・宗派を否定したり推奨したりしているわけではありません。むしろ宗教ひいては宗教を信奉する人の持つ弱さや不完全さにフォーカスした作品が多いようです。

中でも『ヴォードリーの失踪』『世界で一番重い罪』『マーン城の喪主』あたりがおススメです。

 

ヴォードリーの失踪』では恐怖心を煽る戦慄の導入部を用いて、奇抜な手がかりを隠すことに見事成功しています。

世界で一番重い罪』はタイトリングもさることながら、現代の実情と併せて読んでみると、より一層悲しさと空しさを痛感する作品です。

悪魔の心にも、時には真実を告げることが喜びとなる

まさにブラウン神父譚の真骨頂とも言うべき逆説めいた表現の最たる例。

マーン城の喪主』本書の代表作と言って良い作品なのではないでしょうか。事件自体のトリックも素晴らしく、易々と事件の映像が浮かび上がってくるような色彩豊かな語り口も良いです。登場人物たちの配役も絶妙で、まるで一本の映画を見ているような美しい構成ですが、到達する結末は悲劇的です。

 

 

最後にブラウン神父の推理方法という点も少しだけ触れておかなくてはならないでしょう。

第1章『ブラウン神父の秘密』で明かされる、ブラウン神父曰く“宗教修行の一法”である推理方法は、もちろん彼だけが用いる特異な方法であるにもかかわらず、決して突飛な発想でも非現実的でもなく、妙な説得力感じられます。

 

また、プロローグ内で神父が解決法を語ってから、実例を話し出すまでの十数行は、美しい文体と流麗な色彩描写が冴え渡り、何度読み返してもうっとりしてしまうほど。この箇所だけでも読む価値は十分あると思います。

もちろんエピローグでのややスリリングな展開も忘れてはいけません。

一筋縄ではいかない『秘密』を覚悟して読んでほしいと思います。

 

では!