発表年:1937年
作者:ジョン・ディクスン・カー
シリーズ:ノンシリーズ
このブログを初めて間もない頃、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』の感想を書いた記事の冒頭で、最も高名な推理小説はなにか?という問題に触れ、クロフツの『樽』やクイーンのレーン四部作などとともに本作『火刑法廷』を取り上げたことがあります。
tsurezurenarumama.hatenablog.com
今見ると中身ペランペランだなオイ
しかも、あたかもそれら有名な作品を全部読んだことがあるかのような書き方をしてしまいましたが、正直なところ、一つと言えども読んだことはありませんでした。この場を借りてお詫びします。
ただあれからずっと『火刑法廷』という作品はミステリの一級品であるという意識が残り、本作挑戦前にどれだけ面白いんだろうという期待でハードルが上がっていました。
結論から言うとそんなハードルは易々と超えてしまう傑作だったのですが…
まずは粗あらすじ…の前に目次を見ると、Ⅰ起訴Ⅱ証拠Ⅲ弁論Ⅳ説示Ⅴ評決とあるしタイトルにも『火刑法廷』とあるから、勝手に法廷ミステリなのかと思ったら全く違いました。
途中までずっと弁護士の登場を待っていたのに。
粗あらすじ
70年以上も前にギロチンで処刑された毒殺魔の女性と名前も容姿も瓜二つの女性を妻に持つ編集者スティーヴンスは、友人マークから伯父マイルズの死について相談を持ちかけられる。彼の死もまた服毒による殺人の疑いがあるというのだ。かくして墓を暴くことになったスティーヴィンス一行が目にしたものとは…
本作がカーの代表作の一つとして数え上げられている最大の要因は、やはり至高の人体消失トリックでしょうか。それとも怪奇世界への見事な導入でしょうか。否、二つの世界の完璧な融合に他なりません。
人体消失トリックについては、独創的かつ効果的なトリックが用いられており、心理的盲点を突いた巧妙さには脱帽です。長年月を経た現代でも確実に通用するレベルのものです。
もう一つの要素、怪奇世界への扉はやや唐突に開かれます。不死者というオカルティックなネタを軸に、お馴染みの幽霊騒ぎなんかもあったりするのですが、そちらの方はやや添え物のような印象を受けました。やはり、その後に待ちうける真の怪奇現象の前触れに過ぎないのでしょう。
書きたい項目はたくさんあるのですが、うまくまとまりません。
本作には特徴的な部分がたくさんありすぎます。例えば、最終章Ⅴ評決で読者に突きつけられる驚愕の真実然り、探偵の配役の妙であったり、徹底された怪奇描写だったりと暇がありません。
ネタ自体は十分通用する本格モノなのに、総体的に見るとただの本格ミステリに非ず。
個人的にはアントニイ・バークリー『第二の銃声』を読み終えた時の感覚と少し似ています。もちろん二作間には共通点などほとんどないんですが。たぶん、どちらもミステリ初心者にはお勧めできないという部分でしょうか。
感想書きも含めて再読し、リベンジしたい1作になりました。
では!