サイロの死体【感想】ロナルド・A・ノックス

発表年:1933年

作者:ロナルド・A・ノックス

シリーズ:マイルズ・ブリードン3

 

ノックスと言えば、散りばめられたユーモア描写と特異な結末、薄らと多重解決の趣を感じる『陸橋殺人事件』で有名ですが、『陸橋~』を含む彼が生涯で書いた6作の長編にうち5作の探偵を演じるのは、保険会社の代理人マイルズ・ブリードンという人物です。

本作はその5作のうち3作目のため、時系列順に紹介できない点は残念ですが、如何せん前2作(特に第一作『三つの栓』)が入手困難の為仕方ありません。今一番復刊を待ち望む作品の一つです。

本作がシリーズものとはいえ、読み進める上での障害はほとんどなく、『陸橋殺人事件』でノックスのイメージが固まってしまった読者がいれば、積極的に本作にチャレンジして欲しいところです。れっきとした本格ミステリ作家としてのノックスを垣間見ることができます。

 

以下粗あらすじ

イングランドとウェールズの境界にある田舎町ラーストベリに集められたブリードン夫妻を含む男女たち。妖しげな≪駈け落ちゲーム(レース)≫を行った翌朝、登場人物の一人がサイロ内で死体となって発見された。レース中に仕組まれた巧妙な策略、登場人物たちが抱える秘密をブリードンは暴けるか?

 

まずサイロ内で発見された死体というだけで読者の興味を引きます。なぜ?どうやって?という謎を孕みつつ、手を加えられた形跡の残る現場や動機の解明など、謎が謎を呼ぶ魅力的な展開が待っています。

この点は、解説でも書かれている通り、短編としても十分機能しそうな謎の数々が惜しげもなく投入されており、ノックスのミステリ作家としての能力の高さに驚かされるでしょう。

一方、謎の種類が豊富なだけに、全て回収できるのかと不安になるのですが、意外や意外。中盤以降一つずつ丁寧に謎が紐解かれる点もGood。

さらに終盤解決編に突入すると、C・デイリー・キングが最初に行ったとされる“手がかり索引”を彷彿させる引用描写が目を引き、フェアプレイの観点からも評価が高まるだろうし、なにより、読者に推理小説を楽しませるノックスの手腕を堪能できます。

 

また、興味深いのは探偵役マイルズ・ブリードンのキャラクター

時代は1933年。クイーンやクリスティ、カーやセイヤーズが創造した特異な探偵たちと比べると、ブリードンの探偵活動に対するスタンスはかなり消極的です。

ただし、消極的=能力が低いわけではありません。ヴァン・ダインが創造したファイロ・ヴァンス顔負けの心理的探偵法を見せてくれることもあるし、エラリー・クイーンのお株を奪う論理的な思考で推理を披露してくれます。

そして、そんな彼のキャラクターと、探偵が導く強烈に皮肉めいた結末部の完璧ともいえる符合は、その因果関係がしっかりと描かれており、プロットの面でも良質なミステリと呼べるでしょう。

間違いなくノックスの代表作と呼ぶにふさわしい作品です(2作しか読んでないけど)。

あらためて未訳の作品を含む全シリーズの復刊を待ち望みます。

 

では!