発表年:1933年
作者:エラリー・クイーン
シリーズ:ドルリー・レーン4
エラリー・クイーンの作品に対し、厳しめに感想を述べるというのはどうも気が引けます。
エラリー・クイーンが世界的に認められた推理小説作家であることはもちろんながら、ファンも多く、ましてや100冊前後しか読んだことのない若造だあーだこーだ批評するのはおこがましい気もします。
がしかし!ここは最強の矛“言論の自由”を振りかざし勇気を持って言ってみようと思います。
これはない
別にこうしたほうが良かった、などと言うつもりもありません。そんなことはイチローにバッティング指導しているようなもので、全く的外れで非常識なものになってしまい兼ねません。しかし、敢えて言わせていただきます。
これはない
じゃあどれならアリなのか?不満点ばかり挙げても仕方がないので、まずは本作の良点を挙げようと思います。
1.謎の提起が魅力的
一見探偵事務所に舞い込んだ突拍子もない不可思議な事件、という印象ですが、物語が進むにつれて、背後に刑事事件の香りもするし、なにより、犯人の目的が煙に巻かれていて、読者の魅力を惹きつける要因にはなっています。
2.サム警視の奥深いキャラクター
元警視として、探偵事務所の所長として、一人の男として、そして父として、彼の見せる様々な側面は、魅力の一つでしょう。
3.≪悲劇四部作≫を締め括るにふさわしい悲劇的な結末
この点については、『X』『Y』でも十分悲劇的なストーリーだっただけに、本作だけがずば抜けて評価が高くなる点ではないかもしれませんが、起承転結の『結』としては概ね納得の一作です。やはり、本シリーズは順番に読んできて正解でした。
私が感じた良かった点は以上で、ここからは「ない」と感じた点になる……のですが、かなりネタバレの危険が高まるため、本作を未読の方は、読了後見ることをおススメします。
〈以下ネタバレ可能性〉
まず個人的な不満点の最大の部分は、犯人についてで、本作の犯人は歴代の犯罪者たちの中で最も中途半端な犯罪者の一人なのではないか、という点です。
動機の部分で読者に理解できないのはしょうがないとして、弄した策の質・方法どれをとっても中途半端に思えます。それでいいじゃないか、誰だって生粋の犯罪者じゃないんだから。こういう意見もわかるんですが、探偵に論理的で流麗な解決を期待する以上、犯人にも同等のレベルを期待するのは当然です。
そしてそういう意味では、本作の探偵のレベルの低さも致命的で、思い込みだけで突進してゆく探偵を見るのも痛ましいものがあります。
確かに本作のラストは意外性もあり、結末部に相応しい展開となっているはずなのですが、どうも興奮を覚えません。まぁ“悲劇”四部作なのだから、哀しみや切なさみたいな感情が正解なのかもしれませんが、どうもそちらの方も盛り上がらない…
原因は圧倒的なテンポの悪さなのか、それとも論理的に証明されない証拠の数々のせいか…
さんざんディスっといてなんですが、ただ決して駄作などではありません。本作の良点1~3は変わらずに推すことができます。
あのエラリー・クイーンでも、今回だけは素晴らしいピースを間違って組み合わせてしまった、ということでしょうか。
では!