発表年:1932年
作者:エラリー・クイーン
シリーズ:ドルリー・レーン2
本作は紛れもなく不朽の名作と呼ばれるに相応しい推理小説です。
バーナビー・ロス名義で書かれたエラリー・クイーンの≪悲劇四部作≫の二作目『Yの悲劇』は、前作とうってかわって館モノとなっています。
もちろん探偵役は前作に引き続きドルリー・レーン氏、そしてサム警視とブルーノ地方検事も捜査に協力します。
粗あらすじ
『不思議の国のアリス』に登場するいかれた帽子屋を皮肉ってマッド・ハッターと呼ばれる変わり者だらけのハッター家の面々に襲い来る悲劇の数々。またもや警察の依頼を受け捜査に協力するレーン氏が辿りつく驚愕の真実とは?
ここからは本作の感想を、自身が付けた本作の評価表を基に書いていこうと思います。以前一度書いたこともあるのですが、私は読み終えた推理小説を一つ一つ共通の観点で評価していて、それを表にまとめることで自身の読書記録を管理してます。いわば完全なる自己満足の世界です。
そして、その評価の観点になっているのが、エラリー・クイーンの設定した探偵小説批判法。
これは全十個の要素に対し各10点を割振り、合計点に応じてその総合的な評価を下すというものです。そしてその十項目というのは、
- プロット(着想と発展、論理的かどうか)
- サスペンス(常に興味を保持し続けるものか?決してハラハラドキドキがあればよいという意味ではない)
- サプライズ(言わずもがな意外性があるか)
- アナライズ(分析に耐え得るか、矛盾がないか)
- スタイル(文章・文体の出来はどうか)
- キャラクター(登場人物に人間らしさがあるか、実在性があるか)
- ステージ(オリジナリティある魅力的な舞台が配されているか)
- メソッド(殺害の方法はありきたりではないか)
- ヒント(手がかりの扱い方はどうか、良ではなく質がどうか)
- フェアプレイ(重大な事実を隠ぺいしていないか、解決に必要な手がかりを全て提示しているか)
の十項目です。これをもとに本作『Yの悲劇』を採点してみると
1、プロット10点
2、サスペンス7点
3、サプライズ10点
4、アナライズ9点
5、スタイル7点
6、キャラクター7点
7、ステージ8点
8、メソッド8点
9、ヒント9点
10、フェアプレイ10点
こうなりました。
「おい7とか8とかその差はなんなんだよ」とは聞かないでください。「逆にその項目で10のやつ教えろよ」も無しです。感覚もしくは他作品とのバランスとしか言いようがないので(笑)
ここで注目したいのは、3つの項目で10点となったことですが、これはM-1の一人目のコンビで100点をたたき出すようなガバガバな採点ではありません。ミステリを評価するにおいては、決して1位を決めるのが目的ではないのだから、10点がいくつあっても良いのです。それだけ素晴らしい作品だということになります。
特に3、サプライズの点で10点となったことは、概ね納得していただけるでしょう。そして1、プロットが満点になった点については、3、サプライズの項目とも密接に関係しています。
つまり、意外性に頼ることなく、そしてその意外な結末に至る過程にこそ反駁の余地のない論理的な推理が反映されている点が満点の理由です。
しかも推理に必要な手がかりが全て堂々と提示され、読者に対するフェアプレイ精神の観点からも満点を与えてよいのではないでしょうか。
前回『Xの悲劇』の感想同様、かなり大雑把な感想になってしまい申し訳ないのですが、それだけ先入観や詳細を省いて早めに本作にチャレンジしてほしいということです。
最後に一点だけ。
本作の設定を見るとアメリカの某作家が書いた某作品が思い起こされるでしょう。しかし、設定こそ似ているものの本作との違いは歴然です。某作は、単体としてのミステリ。そして本作は“悲劇”をキーワードに複雑に絡み合った≪悲劇四部作≫の二作目なのです。
ただ単に犯人当てを目的とするだけでなく、起承転結の承の部分、『起』を発展・展開させた、また進化・昇華させた極上のミステリとなっていると思うのです。
次作以降どう転じるのか期待しましょう!
では!