発表年:1928年
作者:S・S・ヴァン・ダイン
シリーズ:ファイロ・ヴァンス4
粗あらすじ
ジョン・コクレーン・ロビンが矢で貫かれた死体で発見された。彼の愛称はコック・ロビンで、否が応でもマザー・グースの童謡「だれがコック・ロビンを殺したの?」を想像させる事件だった。そして事件の直後、新聞各社に届けられた“僧正”と名乗る人物からの手紙は、その想像が事実であることを決定づける。次々と僧正の魔手に倒れる被害者たち、そしてその誰もがマザー・グースの童謡に関係する人物だ。はたして、“僧正”の真の目的とその正体とは?
本作を高名な作品たらしめている最大の要因は、もちろんマザー・グースの童謡を題材にミステリを書いていることでしょう。
しかもそれが効果的にまた巧妙かつ密接にミステリに絡んでいるので、同じ見立て殺人を扱った作品の中でも群を抜いて知名度・影響度の高い古典的名作です。
本作で掲げられた謎は
- “僧正”の正体
- “僧正”のネーミングの由来
- 殺人の動機
- マザー・グースの童謡に見立てる意味
と豊富にそろっています。
以上の謎はどれも魅力的に、それに高いプロットで書かれてはいるものの、ミステリに必要不可欠なはずのトリックの謎が曖昧で、この1点が論理的に解明されていたら、なお素晴らしい作品だったと思います。
ただそんな要のトリックを欠いても、本作が読ませる作品なのは、読者の意表を突く展開や、“僧正”に対する恐怖を煽る著者の巧みなストーリーテリングによるものが大きいのではないでしょうか。
なにより、ヴァンスでなくては事件を解決しえなかったと確信するほど、彼の心理的探偵法が存分に発揮されており、彼の“数学者”としての一面が、事件の解決にも一役買っています。
そしてこの結末部が、数多の推理小説の中でも随一の衝撃的な幕引きであり、作品全体の掴みどころのない独特な雰囲気を一段高める要素になっています。
一方で、ヴァンスの超人的推理は本作で極まった感もあり、読者としては親近感がどんどん薄れてしまうのも事実。ヴァンスの親友マーカム地方検事もあまりに想像力が欠落している、というかヴァンスに引き離されすぎ、というか…多少のストレスも感じるところです。
ヒース部長刑事の方は、ヴァンスに信頼を置くようになってきているようで、ここはポワロに対するジャップ警部のようで好感が持てます。
次作は『カブト虫殺人事件』となんとも食指が動かないタイトルではありますが、そこまで頑張ってみて、一度手を休めてみようかな…
では!