夜歩く【感想】ジョン・ディクスン・カー

学生時分は夜更かしなんてあたりまえで、夜行性の人間だったと思うのですが、年を取ると、さらに言えば子どもが生まれたりなんかすると、めっきり夜更かしは少なくなって、9時くらいになると眠たくなってくるし、朝7時になると自然に目が覚めます。

中高生の時は夜行性で、今が昼行性なんて…

やかましいわ。

 

発表年:1930年

作者:ジョン・ディクスン・カー

シリーズ:アンリ・バンコラン1

 

粗あらすじ

パリ予審判事アンリ・バンコランとパリ警察の刑事が見張るナイトクラブの一室で起こった血腥い事件。現場から忽然と姿を消したかに思われる犯人は、はたして精神異常者ローランなのか?愛憎渦巻くパリで刃を振るう夜歩く者の正体如何に?

 

本作は.密室の王者と呼ばれる偉大な推理小説作家ジョン・ディクスン・カーのデビュー作です。

『夜歩く』(原題:IT WALKS BY NIGHT)はただ単に、夜のお散歩という意味ではありません。ITの指すのは、もちろん夜、人知れず忍び歩く犯人そのものであり、言葉の奥に秘められた確固たる存在が、より一層怪奇な雰囲気を後押しするように思えます。

 

事件の舞台は、甘美な都フランス・パリ。そして、事件の発端が退廃的なナイトクラブとくれば、醸し出す雰囲気はよりいっそう妖しく陰鬱です。

登場する探偵アンリ・バンコランも物語に輪をかけてシニカルで、彼の悪魔を想像させるその風貌も相まって物語全体が暗い雲に覆われているようです。

登場人物誰にも好感を抱くことは無いのですが、決して悪人だらけという意味ではなく、決して輝かないように、熱が伝わらないように敢えてヴェールが掛けられているような印象を受けます。

それは登場人物以外にも台詞の端々、物語のステージ、事件の舞台、方法、トリックすべてに効果的に用いられています。

 

創元推理文庫の新訳版に掲載されている解説にもあるとおり、

ディクスン・カーの小説は最良のお化け屋敷

という評は、かなり的を得ているのではないでしょうか。

しかも現実のお化け屋敷では味わえない、独特の恐怖を活字を通して感じることができるのです。

もちろん、現実のお化け屋敷に登場するお化けがどれも造り物で、生身の人間によって演じられている、という先入観によるものも大きいかもしれません。

しかし、B級映画さながら、お約束ともとれる手法で登場する怪奇描写に、背筋が凍る思いをさせられるのは、著者が作中の行間、物語の構成、なにより推理小説というテーマと絶妙に組み合わせた功績に違いありません。

 

密室トリックのみに言及すれば、想像通りというか、想定内というか、予想の範疇に収まってしまってはいますが、密室トリックと対成すもう一つのトリックには脱帽で、このトリックだけでも本作を読む価値があるというもの。

驚愕の真相を締め括る最後の一文も強烈で、二度と忘れえない作品の一つとなることは間違いありません。

 

怪奇・不可能犯罪・密室全ての要素がバランスよく詰まった傑作です。

 

では!