グリーン家殺人事件【感想】S・S・ヴァン・ダイン

発表年:1928年

作者:S・S・ヴァン・ダイン

シリーズ:ファイロ・ヴァンス3

 

 

ヴァン=ダインの代表作の一つに数えられる本作は、前2作と打って変わって、密度の濃い、サスペンスフルな作品となっています。

というのも本作はグリーン家の面々が次々に襲われ命を落としてゆく、という連続殺人ものなので、最初から最後まで事件が起こり続けます。

ヴァンスは次々に起こる事件に翻弄されながらも、お得意の心理的探偵法で着実に犯人に迫っていくのですが…

 


物語(主に事件)の疾走感に比べ、過去2つの事件を華麗に解決したヴァンスの推理の冴えはやや微妙で、起こった事件を元に推理を構築するものの、それも事件待ちといった状態のため違和感は拭いきれません。たぶん超人的なヴァンスと本作のテーマ(連続殺人もの)の相性はあまり良くないのではないでしょうか。

ただし、作者の張り巡らしたミスディレクションは秀逸で良質なものです。また無意味なミスリードもなく、全ての伏線が結末までに回収されるため読了感もグッド。

 

登場人物がどんどん少なくなっていくために生じる、真犯人の目星がつきやすくなってしまうデメリットもなんのそので、終盤まで読者を翻弄してくれます。また、真犯人の弄した策もほぼ完ぺきと言えるほどで、読者に、全ての事象を疑ってかかる推理小説の基礎を思い出させてくれます。

 

一方トリックの面ではややお粗末な部分もあり、もっともらしい理由が与えられてはいるものの、ご都合主義的な印象をもってしまいます。

 

本作でもヴァンスの添え物のようなワトスン役ヴァン=ダインですが、やはり読者との適度な距離感が保たれており(前まで『いてもいなくてもいい』と言っていたのに)本書の読み易さに貢献していると思います。

 

また、今ではありきたりとなってしまった、莫大な遺産を受け継いだ一家に降りかかる連続殺人というテーマではありますが、本作ではその特異なテーマ以上に、しっかりと読ませる骨太なストーリーがあります。

登場人物同士の人間関係も複雑で、本事件の遠因となったであろう事象の設定にも余念がありません。

前2作以上に筆者の物語を作る巧さを感じる一作です。

 

余談ですが、本書の解説で(恥ずかしながら)初めて知ったのですが、筆者は元々美術評論家として活躍していたそうで、作中で随所に見受けられる多大な引用は、彼の遊び心なのでしょう。そう知るとぐっとヴァンスに近くなったような気がし、次作以降も楽しめそうです。

 

では!