発表年:1925年
作者:ロナルド・A・ノックス
シリーズ:ノンシリーズ
“ノックスの十戒”の提唱者として知られる彼ですが、その生まれはイングランドの聖職者一家で、およそ血腥い殺人を取り扱う推理小説作家とは縁遠い環境で育ったようです。聖職者として慎ましく働く傍ら、ユーモアあふれる詩やエッセイストとしても活躍したといいます。
彼が書いた推理小説は6つの長編と4つの短編、とそんなに多くはありません。しかしながら、全編に彼らしいユーモアがちりばめられているのが特徴のようです。
そして本作「陸橋殺人事件」は、彼の処女作でありながら、彼の名を一躍高め、古典的名作の一つに数えられ、“推理小説ファンが最後にゆきつく作品”とも称されています。
あらすじは
パストン・オートヴィルなるイギリスの村で起こる怪事件を、ゴルフ専用クラブの会員たち4名が素人探偵として事件解決に乗り出す、
というもの。
この怪事件は、先の会員2名が、ゴルフ中にスライスしたボールを追った先で遭遇するのですが、なんといっても彼ら素人探偵の「素人」ぶりが酷い(笑)
まず「このままにしておくのはまずい。」と言って死体を移動させてしまうのですが、なにが「まずい」のでしょうか。
犯人だからか?そんなあらぬ疑いをかけてしまうほどの素人ぶり。
しかし、良く考えてみると推理小説で出てくる探偵の多くは、死体を発見してもたいして動じず、まるで警察のように現場保存を徹底します。まっさらの素人なら、はたしてそれほど手際よくゆくでしょうか。ある意味で本作で登場する素人探偵は、リアリティある素人探偵といえるのかもしれません。
ただし、推理小説に読み慣れている読者からすれば、警察より先に死体を検めてしまったり、発見した証拠を警察から秘匿して独自に捜査したりする素人には「おいおい」と突っ込みたくなるでしょう。
捜査方法については、三者三様(この場合は四者四様か)で、個性豊かな推理(もしくは想像・妄想)が面白く、身分を偽って関係者に聞き込みに行ったのに、素人っぷりが露呈し相手にやり込められてしまうシーンなどは、思わずニヤリとしてしまいます。ホームズのように掌でコロコロされる証人ばかりではない、ということでしょうか。
そして、彼ら素人探偵たちが辿りつく、物語の解決にあたっても、一癖ひねりのある(もしくはない)展開が待ち受けています。この場ではそれを明かすことはもちろんしませんが、あの“十戒”を打ち立てた人物が書いた推理小説と考えると、聖職者でありながら定められた“戒律”を尽く破る壮大なアンチテーゼ然り、推理小説ファンに肩透かしを食らわせるよう結末には、たしかにユーモアのセンスがなければ到達しえなかったでしょう。
最後に解説にも触れられていますが、第1章の2段落目をもう一度読み返すと、作者がニヤニヤしながら筆を走らせている光景が思い浮かべられるようで尚面白味が増します。
では!