発表年:1928年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:エルキュール・ポワロ5
17/4/26やや改稿
タイトルの「青列車」とは、もちろん本事件の舞台となる寝台列車【仏:トラン・ブルー(作中ではブルー・トレイン)】のことですが、クリスティの名作『オリエント急行の殺人』と同じようなクローズド・サークルの要素は全くありません。
犯人の意外性については、特筆すべきところがあまりなく、ストーリーの展開もロマンスが中心となっているため、全体的に悪く言えばボンヤリとした、控えめに言っても尖ってない?作品に仕上がっています。
原因の一つは、やはりせっかく魅力的な【青列車】が舞台であるにも拘らず、その描写・登場回数が少ないこと、タイトルとの大きなギャップが要因ではないでしょうか。
後述しますが、乗り物で起こる事件は、どこか暗示的なところがあるように思います。人を運ぶだけではなく、人生そのものが後戻りできない乗り物のようで、誰しもが人生の終着駅に向かい走っていく。クリスティが伝えたいことの中には、そんなぼんやりしたイメージもあったのではないでしょうか。
高評価されるべき点も挙げておきます。クリスティ作品にはどれも、魅力的な登場人物たちが存在しますが、本作ではミス・グレー、レノックス、そしてジアです。
彼女たち3人のうち2人は33歳で未婚、レノックスはミス・グレーと年が離れているらしいので、20代前半か18,19くらいかな?彼女たちは、生まれ育った環境こそ違えど、同じように誰かを愛し、また愛されることを望んでいます。しかし作中に登場する男どもは、揃いも揃ってギャンブル狂で能天気で、頭の足りない男ばかり。やはり彼女たちの心を導くのはパパ・ポワロを措いて他にはいません。くれぐれも言っておきますが、ポワロの恋愛小説ではありません。かといって、ポワロの『灰色の脳細胞』というワードすら出てこない本作は、素晴らしい本格推理小説と評価するのも難しいところ。
<火の心臓>と呼ばれる稀代のルビーが象徴する赤、青列車の青、ミス・グレーの灰、ポワロのグリーンの瞳、様々な色が溶け合い、本作は造形されています。もう少し挿し色があっても良かったかな?
余談ですが、青列車の車掌、ピエール・ミシェルってあの人でしょうか?いやたぶんあの人でしょう。やはり「人生は汽車」なのだ、と思い知らされます。
では!