発表年:1939年
作者:アガサ・クリスティ
シリーズ:ノンシリーズ
17/3/26改稿
本作は、言わずと知れたミステリー作品の金字塔で、クリスティ作品の中でも特に異質な作品であることには違いはありません。最近、イギリスの大手放送局BBCや日本でも豪華な俳優陣でリメイクされています。でもやっぱり原作が一番面白いと思います。
独特の恐怖を活字を通して感じるなんて、本作でしか体験できないと思うんですが…
粗あらすじ
不気味な雰囲気醸し出すインディアン島(訳によっては兵隊島)に、U.N.オーエンと名乗る謎の人物によって集められた十人の男女が、次々と起こる怪事件に翻弄される。
タイトルからも結末は予測可能でしょうが、本作品の真骨頂は「そして誰もいなくなった」後からです。果たして犯人は十人の中の誰かか?それとも謎のオーエン氏は実在するのか?ミステリーの奥深さ・緻密な人間描写はもちろん、スリラーな作品を書いても、クリスティは一分の隙も無いほど完璧なプロットで本作を書き上げています。
昨今の見立て殺人の描写においては、その凄惨さや残虐性を誇張して表現されることが多いように感じますが、本作では、そのような血腥い描写がないのにもかかわらず、言い表せぬ恐怖と不気味さが醸し出されています。さすがクリスティの筆力というべきでしょう。
一つ重要なキーワードを挙げておくなら、それは“罪”です。
法で裁かれない罪があるとすれば、それはなんでしょうか?完全犯罪?戦争?嘘、妬みも罪かもしれません。一方で罪の贖いは、“死”なのでしょうか?登場人物の中に、後悔や自責の念に駆られている人物はいなかったか?極限まで追い込まれた彼らが悔い改めの道を進む可能性はなかったのか?罪の大きさを傲慢にも秤にかけ、彼らに躊躇することなく自らの快楽のために、剣を振るった犯人は、やはり絶対悪であり、こう考えると、死への順番についても興味深いものがあります。
余談ですが、本作では、今では定番となっているクローズドサークルと見立て殺人という手法が用いられています。
クローズド・サークルとは、“閉じられた環”つまり、災害に遭った孤島や、吹雪の山荘などの、外界と隔離された状況、またはそこで起きる事件を指します。そして、見立て殺人は、文字通り童謡や伝記などに見立てて起こる殺人事件のことです。
一般的に考えて、そんな特殊な状況を拵えて、わざわざ犯人が限定されそうな状況で事件を起こそうなんて考えるはずないし、何かに見立てて殺人を起こそうとするなら、その後の展開が予測されて、犯人にとってリスクしかありません。
そんな一見ありえないような状況にも、納得させるプロットで、唸らせる筆致をもって書き上げられた本書は、改めて、ミステリ小説の代表とも呼べる素晴らしい作品です。
不気味なマザーグース、10人のインディアン(もしくは兵隊)に則って起こる怪事件は、何度読んでも、血の凍るような恐怖を感じるでしょう。
クローズドサークルや見立て殺人について調べてて作品以上に自分でもゾッとしたのですが、マザーグースって、イギリスかどっかのマザー・グースさんのことじゃなかったんですね。
数々の忌まわしき事件の裏にマザーグースおばあちゃんの作った童謡あり、と勝手にガクブルしてた自分が恥ずかしい。
そんなんだからアクセス数も増えないんですよね。
あ、『そもそも誰もいなかった』……
では!