『オリエント急行殺人事件』【ネタバレなし感想】線香花火のような

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©2017Twentieth Century Fox Film Corporation

 

公開から1ヵ月近く経った1月某日、ついにアガサ・クリスティ原作の映画『オリエント急行殺人事件』を鑑賞してきました。

前日までに、原作もサラッと読み返し、復習もバッチリ。

 

で感想なんですが、タイトルからほんと解りにくく&季節はずれな表現ですいません。

簡単に解説します。

 

まず、原作版が解決編でドカンと派手に演出される打ち上げ花火だとすると、

本作は全く同じ解決を辿るにもかかわらず、細かな演出や僅かな登場人物の設定の変更によって、まるで線香花火のように、命を燃やすような力強い火明かりの後に、儚さや物悲しさがじんわり余韻としてやってくる、そんな映画作品になっていました。

そして、原作でも74年のルメット版でもスーシェのドラマ版でも三谷幸喜版でも、ジワリともしなかった涙腺が崩壊しました(単純に涙脆いせい)。

 

原作には原作の、また多くのバリエーションを持つ映像媒体には各々の良さがあるので、一概にどれが良いと評価するのはとても難しいです。

ただ、一つ言えるのは、ミステリとしては間違いなく原作の方が面白い、ということ。

特に、結末で明かされる鮮やか過ぎるサプライズは、原作の中盤が登場人物たちの証言で埋まる緩やかさとのギャップで、最高潮のクライマックスを演出します。

 

一方、今回の映画版は、最初っから最後まで見どころが随所に用意されています。よって、すでに真相を知っている観客にとっては、細かなアレンジに気付け楽しめるのですが、純粋なミステリとしては起伏が少なく、結末部での盛り上がりがもう一つ

 

あと、探偵(ポワロ)対犯人という構図がやや曖昧なのが気になります。詳しく書くことができなくて残念なのですが、原作にないミスディレクションが機能しているとはいえ、全体的に(以下伏字)個VS個ではなく、個VS集団という妙な一体感(ここまで)が漂っているのがマイナスポイント。

 

ただそんな気になる部分を全て吹き飛ばしてくれるのが、ポワロによる解決編で見られる出演者の圧倒的な演技力。

正当性、とまで言うと大げさかもしれませんが、犯人が犯行に至るまで(事件の背景)には胸に熱いものを感じます。

自分の今の年齢とか置かれている環境、家族状況、そういった自分の属性が作品とがっちりハマってしまったのもあると思います。

コレって案外映画を見る時に大事な要素でして…

 

ちょっと話が逸れますが、ジブリの名作『となりトトロ』とか『魔女の宅急便』とかは、独身時代に見た時には、ただの楽しいアニメとしか自分の目には映りませんでした。

それが今見ると、心にジンワリ染み渡るような温かさだったり、今まで気にも留めなかったタイミングで感動の涙が流れることがあります。

それと同じことが本作でも起きたのです。

 

ドンパチばっかりのアクション映画や映像美が魅力のSF映画のような「いつみてもそれなりに楽しめる」映画は数多くあります。

ただ、自分にとって「今見るべき」映画に、完璧なタイミングで出会えるチャンスはなかなか訪れません。

 

本作は、たしかに原作を読んだ人向けの、愛好家のための映画です。

しかし、この記事を読んでくださっているあなたが、

「未だ原作を読んだことはないけど、最近親になりました。」のパターンなら。

 

本作はまさに

今見るべき」映画の一つになると思います。

 

では!