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フレンチ警部シリーズのトライアルにしてはまずまず本気【感想】F.W.クロフツ『ポンスン事件』

 

ポンスン事件 (創元推理文庫 106-2)

ポンスン事件 (創元推理文庫 106-2)

 

 


発表年:1921年

作者:F.W.クロフツ

シリーズ:ノンシリーズ


ようやくクロフツのノンシリーズものの長編を読み終えました。クロフツのノンシリーズもののミステリは、クロフツの代表作『』、そして『フローテ公園の殺人』と『製材所の秘密』のたった4作です。これでようやく本腰を入れてフレンチ警部シリーズに挑めます。

とまあ意気込むのはいいんですが、本作がなかなかの曲者だったので、シリーズ挑戦の前にしっかりノンシリーズものを整理しておこうと思います。

 

まずは粗あらすじ

金持ちの老地主ポンスン卿の水死体には、不可解な謎があった。スコットランド・ヤードのタナー警部は、持ち前の洞察力と粘り強さで、巧みに隠されたアリバイ工作の痕跡を発見するが、事件の全貌は見えない。ポンスン卿の死の影で策動する犯人の正体とは。

 

当ブログでもさんざん指摘しているところですが、アリバイものというのは(アリバイものと謳われている以上)基本的に、アリバイがある人物≒犯人になってしまうため、単品ではどうもハンディキャップを背負っていると思っています。ただ、本作のように全員が全員うまい具合に怪しいと、その面白さは数倍に跳ね上がります。

クロフツはこれまで、『樽』ではアリバイもののフォーマットの確立を、『製材所の秘密』でクライムサスペンスの試みを、『フローテ公園の殺人』でクロフツ流の探偵像の発展を披露してくれましたが、本作ではまず手の込んだ犯罪計画を用意し、フレンチ警部の分身のようなタナー警部を配役し、さらに複数の綿密なアリバイ計画を軸に見事に読者を翻弄してくれます。発表順で言えばまだ2作目ですが、既に本作でフレンチ警部シリーズを書くトライアル(試行)は終了していたのではないでしょうか。

また物語が終盤に差し掛かると、怪人物の逃避行を阻止するべく大陸を股にかけた冒険風味の追走劇も楽しめます。これはまあ要らないっちゃ要らないんですが…やはり1921年という時代を考えると、まだまだ推理一本調子ではなく、読者を惹きつけるための横筋が削ぎ落とされていないあたりに、古き良きミステリの面影も感じる一作です。

 

最後になりますが、創元推理文庫所収の『ポンスン事件』(井上勇訳)の中表紙には、ある興味をそそる一文が書かれてあります(私は幸いにも見逃しました)。それを読んで本書にチャレンジするのも良いのですが、先入観を極力抱かないためにも、敢えて飛ばして読むのもオススメです。

ネタバレを飛ばす 

 

 

以下超ネタバレ

 《謎探偵の推理過程》  

本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

 

 


冒頭から息子のオースチンが怪しい。なぜポンスン卿が行方不明だと聞いただけで恐怖の表情を浮かべなければならないのだ(頁23)。その後も「ふたたびなにか恐怖に似たひらめき(頁24)」が現われるなど、怪しすぎる。

ただ、これだけ怪しいのは、ポンスン卿と諍いがあったというだけの話かもしれず、もしかしたら一発殴った程度のものかもしれない。それを殺してしまったと勘違いしている可能性はある。

 

オースチンが誘い出された策略はありきたりだが、非現実的とは言えない。協力者の有無によって結果は全く違うものになるだろう。今のところ保留。

ただオースチンのビビりようからすると、自分で考えたものではなく、主犯に脅迫されての無理矢理の犯行か、または素直に罠にかかったかのどちらかだろう。少なくとも主犯ではない。

 

コスグローブは風体から間違いなく怪しいし、協力者で愛人で悪女のミス・ベルチャーが付いていることを考えると容疑者からは外せない。さらに、アリバイ工作に余念が無さすぎる。どのようにアリバイが崩れるかはわからないが、まず主犯の最大候補だ。

さらにアリバイとは別に、現場に残った正体不明の足跡の問題がある。タナー警部はその足跡を、労働者階級の小柄な男だろうと推定しているが、実際はどうだろうか?男の靴を履いた女というのはどうか?否定する材料は無い。コスグローブ&ミス・ベルチャーが主犯で、オースチンを騙しポンスンを殺害したというのはあり得る話か。

 

ただ、どうも金銭面の動機が弱い気もする。ポンスン卿の遺言ではオースチン、コスグローブ両人に相当額の遺産が遺されるはずだったし、そういう意味ではオースチン&コスグローブ共犯の線も薄い。

 

物語後半になると、例の小柄な男が登場した。この男がポンスン卿を脅迫していたらしい。それを黙らせたのがオースチンとコスグローブか。

ならポンスン卿はなぜ死んだのか。殺したのがポンスン夫人の生きていた元夫だとして、なぜオースチンとコスグローブは彼を訴えないのか。

オースチンとコスグローブ(メインはコスグローブ)が脅迫してきたデールを殺そうとする→デールは間一髪逃げる→その際に殺害を止めようとしたポンスンが誤って殺される

これならありえなくはない。う~ん手詰まりか。

 

推理予想

ウィリアム・ダグラス(トム・デール)

結果

勝利?

うん。良くできた話だとは思います。一つひとつのアリバイ工作も巧みで、多少怪しさが際立ってはいるものの、クロフツの技量の高さは感じます。ただ、事故死に繋がる手がかりの少なさが気になります。ボートハウス内の描写も弱く、血痕とまではいかなくとも床の凹みくらいはあっても良かったかもしれません。

登場人物が出揃ってからのテンポの遅さも多少気になるのですが、ここらへんはクロフツ作品に慣れていれば問題ありません。裏を返せば、展開のスムーズさや、わき道にそれない純然なミステリを望む読者はストレスを感じるかもしれません。

アリバイものが好きというより、クロフツ好きなら必ず読んでおきたい初期の名作です。

 

 

 

ネタバレ終わり 

クロフツが計らずも、読者への挑戦状のような形になってしまった(中表紙あらすじより)本作ですが、そういったスタイルと本書の相性は良くありません。

自分自身、読了後、中表紙のあらすじを見、再び読み返してみたのですが、どうもコレという手がかりは発見できず…もし気付かれた読者がいらっしゃれば是非教えてください。

 

では!