僕の猫舎

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見取図はいらないけど間取図だけは欲しい【感想】『死時計』ジョン・ディクスン・カー

 

死時計 (創元推理文庫 (118‐22))

死時計 (創元推理文庫 (118‐22))

 

 

 

発表年:1935年

作者:ジョン・ディクスン・カー

シリーズ:ギデオン・フェル博士5

 

   あらすじを書くのも億劫になるくらい、展開がややこしい…時計職人の家で不審者が不思議な兇器で死ぬ。これくらいしか確かなことが言えません。カーのやりたかったこと、つまりは犯人にさせたかったこと、また探偵にそれをどのように暴かせるかはしっかり伝わってくるのですが、如何せん複雑難解な事件だけに、現場を思い浮かべるだけでも一苦労です。振り返ってみると見取り図はやり過ぎかもしれませんが、家の間取り図くらいはあってもよかったのかな、と思います。

 

   序盤に語られる盗難事件から、不審者の正体と登場人物たちとの関連性、意味深な現場状況など、“ありえそうにない”という意味での不可能状況が生じているのがポイントです。それらを解きほぐそうにも、全てに合理的な説明ができなさそうに思えるため、読者は混乱すること間違いなし。

   中盤では、『盲目の理髪師』でも挿入されたような、事件に関する考察点が5つ挙げられています。正直、本作において一番秀逸だと思うのがこの記述で、手がかりではなくあくまでも「考察」なのが面白いところです。この部分以前に登場した手がかりが必ずしも既成事実ではなく、再度事実を導き出すためによく考え調べることが促されています。ただ一方でオーバーになり過ぎた感もあって、この挿話以降、ぐいぐいと誤った方向に導こうという見えない力が見えすぎて、逆に真相が見え易くなっている部分もあると思います。

   そして、このままだとつまらないぞ、とドキドキしているあたりで挿入されるのが、検察側に扮したハドリー首席警部と弁護士になったフェル博士の推理対決です。寄木細工の猫を裁判長に見立て、恭しく頭を下げながら弁論するフェル博士が滑稽ですが、語られる内容は興味深いです。今までに登場した手がかりから一つの解決を提示するハドリーに対して、これまた事実で反論するフェル博士の構図は良く出来ています。

 

   解決編の直前では、登場人物たちをもペテンにかけながら、真犯人を炙り出してゆくのですが、その過程もうまく書けているのではないでしょうか。真相が見えすぎていなければ、ここで再び疑心暗鬼にさせられ、最終のサプライズへの奮発材になったのではないかと思います。

   また、風変りな方法で追い込まれ明かされる真犯人の告白も印象深く、記憶に残るミステリでした。

 

 ネタバレを飛ばす

 

 

以下超ネタバレ  

《謎探偵の推理過程》

 本作の楽しみを全て奪う記述があります。未読の方は、必ず本作を読んでからお読みください。

 

 

 

 

 

 

   ボスクームは犯人じゃない…ねぇ。嘘じゃないんだろうけど、彼の行動が殺人に何らかの影響を与えている可能性は念頭に置いておこう。

   デパートの盗難事件も覚えておいた方がいいだろう。

 

   殺人が起こるまでの描写は緩慢で楽しくなく、取り調べも単調。わかったのは冒頭に書かれていたようにボスクームは殺人を計画していただけということと、エリナーを巡るロマンスの香り、そしてデパート盗難犯の真相に近づきすぎた被害者が殺されたということ。

   時計の針という本来凶器になり得ない奇妙な兇器を使うあたりから、もちろんそれを振るう腕力も含めて女性ではなく、男性の臭いがする。となると、時計職人カーヴァーと同居人ポール、ボスクームの友人スタンレーが怪しいか。

   そうなると、デパートの盗難事件の犯人が女性なので、本件とは関係ないor共犯の可能性がある。可能性があるのは盗難犯エリナー、共犯で恋人のヘイスティングズだが、ヘイスティングズは完全にアリバイがあり却下。となると真の恋人はボスクーム?お互いに憎み合っている印象を与えているのか?ただボスクームにも鉄壁のアリバイがあった。

 

   中盤で提示される5つの考察点からは、デパート盗難事件と本件の関連性の無さが強調されているように思えた。つまり、真犯人はデパートの盗難事件と本件を結び付けたがっており、盗難犯=エリナー?に罪を擦りつけるのが目的か。となるとエリナーを憎んでいる人物が犯人になるが、そうなるとボスクームしか思い浮かばない。そして結局アリバイに戻ってくる。

 

   ハドリーとフェル博士の論戦は中々面白いが、エリナーがデパート盗難犯でないとすると、彼女を憎む人物にしか目が行かずやはりボスクームに戻ってくる。しかし、どうやって?

 

 

推理予想

カルヴィン・ボスクーム

結果

勝利

   ボスクームの用意したまやかし(特に贋物の手)に関しては特に不平不満はないのですが、その手がかりが少なすぎる気もします。

   また、改めて第一章を読んでみると、「ボスクーム?そいつが殺人犯人なんですか?」に対してたしかにフェル博士は「いや」と言ってしまっているのも気になります。ただ、その他にもボスクームがスペインの異端審問に傾倒していたことや

(頁11)殺人の動機がいかに悪魔的

など仄めかしも十分あったんですよねー。前述のアンフェアな部分さえなんとかなればもっと評価は高くなったのかもしれません。

 

 

 

 

 

 ネタバレ終わり

↑のネタバレ記述もそうですが、本書の解説もややネタバレの危険性があるので、読書の際はお気をつけください。

 

   あと、タイトルの間取図と見取図の違いって正直よくわかんないんですよね。部屋の家具とかのレイアウトは要らないから、部屋の(全体の)配置図が欲しいってことでした。ややこしくて、ごめんなさい。

 

 

では!