2017年上半期読了ミステリベストテン

   2017年上半期は、去年以上に新しい推理小説作家に多く出会った半年でした。

 

E.C.R.ロラック、マイクル・イネス、パーシヴァル・ワイルド、ロジャー・スカーレット、E.S.ガードナー、ジャック・フットレルレックス・スタウトとそうそうたる顔ぶれです。誰もがミステリ界の大物たちで、中には若干期待値が大きくなりすぎてしまった作品もあったのですが、全体的に見ればやはり傑作揃いでした。ではさっそく読了ミステリ全37作からベストテンをどうぞ。

 

 

第10位『警察官よ汝を守れ』(1934)ヘンリー・ウェイド

   今年は上位20作品くらいは胸を張ってオススメできるミステリばっかりだったので、10位と言えばかなりオススメ度も高い作品です。好意的なキャラクター舞台の魅力、トリックの独創性などバランスのとれた良作ですが、サプライズ要素だけが残念。プール警部シリーズで文庫版が欲しいなぁ…

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第9位『悪魔と警視庁』(1938)E.C.R.ロラック

   ガチガチの本格というわけでもなく、所々に遊び心があしらわれているものの、そこまで緩くもなくスマートに引き締まったミステリ、という印象(わかりにくいか)。なので、読者をあまり選ばないミステリなのではないかとは思います。

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第8位『鐘楼の蝙蝠』(1937)E.C.R.ロラック

   2作続けてロラックがランクイン。カーほどじゃないにせよ、暗めの舞台装置の用い方が巧いなと感じます。登場人物の動かし方も自然で、物語に破たんもなく安定していました。どんでん返しもしっかりあって、水準以上の出来なのは間違いないのですが、このシリーズ、もしかしたら全部こんな感じ(このレベル)なのかな?と訝ってしまうのも事実です。安定ってのは悪いわけじゃないんだけどね…

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第7位『ポアロのクリスマス』(1939)アガサ・クリスティ

   クリスティやってくれたな!という感じ。最後の大技に目が行きがちですが、よく読み返してみると、クリスティの悪人の書き分け方に改めて魅力を感じる。表面化しない悪を書ききること、殺人という行為を憎むこと、愛を成就させること、そんなクリスティの芯の部分が見えてくるから、やっぱりクリスティ作品は面白い。

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第6位『髑髏城』(1931)ジョン・ディクスン・カー

ブログでは「珍味ミステリ」なんて揶揄してしまいましたが、珍味と言えども味も質もかなり良質です。作中に登場する探偵同士の推理合戦だけでなく、読者対カーという構図も間違いなく用意されています。カーの創造した舞台と独特の雰囲気に呑まれないように冷静に推理できるか試される一作でした。

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第5位『ある詩人への挽歌』(1938)マイクル・イネス

   初イネスでとんでもないのに出会ってしまいました。一つの文学としても、ある種の伝奇小説・歴史小説として読んでも面白い、珍しい作品だと思います。結末部は少々強引な感じもするのですが、もちろん物語には整合性がとれていて、ミステリとしても高水準。章立ての工夫からは、マイクル・イネスという作家の持つ創作能力の高さも感じられます。

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第4位『検死審問-インクエスト-』パーシヴァル・ワイルド

   幾多のミステリ愛好家たちから愛され称賛を受けているミステリだったので、かなりハードルが高めでしたが、それを難なく超えてくる名作でした。しかも続編も面白いというのだから恐ろしい。タイトルどおり限定された舞台の中にも関わらず鮮やかに情景が浮かぶのは、作者の描写力の賜物。ユーモラスな挿話とキャラクターが読書をほどよく助け、アッと驚く結末へと導いてくれます。

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第3位『エジプト十字架の謎』(1932)エラリー・クイーン

   推理小説におけるゲーム要素がぐんぐん高まっています。これみよがしに象徴的なエジプト十字架を皮切りに、裸体主義者、太陽崇拝、ボードゲームのコマ、怪しい隣人などこれでもかと手がかりになりそうな要素が登場して、唯一無二の真相に結実していく様は圧巻です。

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第2位『ナイルに死す』(1937)アガサ・クリスティ

   ポワロシリーズでも屈指の名作が2位にランクインしました。長大なボリュームがあるだけに、事件の展開も豊富で、スピード感のあるラストとは言えません。ただ、それを差し引いても余りある人間の奥深さやトリックの独創性に瞠目します。クローズド・サークルものとしても素晴らしい作品です。

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第1位『俳優パズル』(1938年)パトリック・クェンティン

   上半期では断トツの1位です。探偵の巧みな動き、“舞台”という舞台を用いた効果的で巧妙な演出特異な殺人方法、登場人物同士の自然なドラマ、結末部の盛り上げ方、全てが素晴らしいと思います。個人的には『アクロイド殺し』『Xの悲劇』『第二の銃声』といった傑作よりも衝撃度・余韻共に上をいく超傑作です。

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短編部門

   短編部門では、対象は8作品ありました。その中でも、やはり面白かったのは

『悪党どものお楽しみ』(1929)パーシヴァル・ワイルド

   1929年いう時代を感じさせないのは、従来のミステリに登場する文化要素や雑多な職業を持つ人物が登場せず、ほとんどが元詐欺師と詐欺師、そしてカモたちを中心に話が進むからだと思います。純然なミステリとは言い難く、ホームズものみたく派手な殺人・盗難・誘拐が起こるわけではありませんが、「謎を解く」過程はそこらの短編ミステリより重要視されていて、その出来も秀逸です。先入観と誤った期待さえなければ、万人にオススメできる名作短編。

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『窓辺の老人 キャンピオン氏の事件簿Ⅰ』(1928)マージェリー・アリンガム

   こちらも良かったですねー。貴族探偵ピーター・ウィムジィ卿が好きな私は、どんぴしゃでハマってしまいました。

   ミステリアスなキャンピオン氏のキャラクターもさることながら、解決の演出にセンスを感じます。謎は小粒なのに、奥行きの拡がりがあって読み応えも十分あります。語り口も柔らかくて、読了後じんわり温かくなるような短編集でした。

※まだ感想記事を書けてません。

 

 

その他

   怪盗紳士アルセーヌ・ルパンシリーズから2作『奇岩城』と『813』を読みました。『奇岩城』は感想を書いたのですが、『813』は未だ…『続813』を読んでからチャレンジしようと思います。ルパンものって、語り口は軽妙なのに、ストーリーやテーマが意外に暗いものも多くて迷わされます。また、薄幸の美女も多く登場して、決してハッピーエンドに終わる作品だけじゃないのもテンションが下がるんですよね…気長に少しずつ消化しようと思います。

 

ということで、みなさんの上半期ベストテンを教えてください。

では!