製材所の秘密【感想】F.W.クロフツ

発表年:1922年

作者:F.W.クロフツ

シリーズ:ノンシリーズ

 

 

本作は、推理小説と呼ぶには少々物足りません。

怪しげな製材所で行われている企業犯罪に焦点を当てた社会派ミステリのような形を成してはいるものの、それに付随して起こる殺人事件はなんともお粗末で、およそミステリの中核を支えるレベルではありません。

企業犯罪の仕組みやトリックに関してはかなり練られている印象は受けるのですが、それだけで読者の興味を持続させることはかなり難しいように思えます。

 

ただ、章立てについては、前半と後半が“アマチュア”と“プロフェッショナル”に分かれていて、文字通りプロとアマの独自の捜査が、最終的に結実するように形作られているのは面白いです。

このように構成自体は悪くなく、「おっ」と興味をそそる構成になっているはずなのですが、どうもその仕組みがうまく機能していません

 

二人のアマチュア探偵の冒険は、舞台の変遷こそあれ展開は単調で、一進一退を繰り返して物語は停滞気味。そんな中、企業側の人物との交流(さらに現実感に乏しい)から物語のスピード感が増すのか…と思ったらそうはならない。むしろ、第2部“プロフェッショナル”に入ってからの方が退屈です。

 

探偵役のウィリス警部は、一匹狼のようなそうでないような、また頭脳明晰そうで抜けているどこか中途半端なキャラクターで、自分で盗聴用の電話線を引いてみたり、巧みな尾行術を披露してくれるものの、あまり親近感の湧かないキャラクターになってしまっています。

さらに彼の用いる鍵開け用の針金があまりに万能すぎて驚かされます。たぶんアロホモーラでもかかってるんでしょう(知らない方はハリー・ポッターシリーズをお読みください※)。

※鍵開けの呪文

 

リアリズムが持ち味のクロフツの作品にあって、まだまだ不安定な部分が多くみられる1作といったところでしょうか。

くどいようですが、タイトル通り企業犯罪が中心とはいえ、もう一つの犯罪が2部の冒頭で起こっている以上、そちらのクオリティの低さが致命的なので、トリックや魅力的な犯人もいない中でだらだらと間延びしながら物語が進んでいく印象は拭えず、決して良作とは言えない出来です。

 

ただ、最初に述べたように企業犯罪のメソッドは秀逸で、かなりの注力の跡は見られ、元鉄道技師らしい鉄道トリックも健在。キャラクターの創り込みも含めて、クロフツの試行錯誤が感じられる作品でした。

 

では!