謎は全て解けた!(とりあえず1部までは)
本作はエラリー・クイーンの国名シリーズ第3作目です。
さっそく粗あらすじ
オランダ記念病院で行われることになった病院の創設者でもある老婦人の緊急オペ。その直前に陰惨な事件が発生し、偶然居合わせたエラリー・クイーンが調査に乗り出す。多数の目撃者たちによって容疑者は特定されたかに思われたが、残された物証に合理的な説明は見いだせない。事件が暗礁に乗り上げた矢先、第二の事件が発生する。
冒頭で、まるで謎が解けたかのように大見得をきったはいいものの、いざ解決編を読んでみると大外れも大外れ。そもそも2部に突入した時点で、容疑者だと予想していた人物が旅立ってしまい、愕然としました。
本作の評価は、解説で法月綸太郎氏がこれ以上ないくらいピッタリの評価をしておられます。
「解決の論理性とは、具体的にどういう表現なのか?」という問いに、決定的な答を出した
うーむ、他人の言葉をパクって記事にしてしまうのは、少々後ろめたいので、自分なりに評してみると…
本作は論理的に物事を考える全ての読者に、反駁の余地のない完璧な解決を提示した
一緒、びっくりするくらい同じ。
もう一つ頑張ってみましょう。
まるで偉大な芸術作品のように、誤りのない無二の解を導き出す数学の公式のように、それは証明問題における解法の美と手法の美を併せ持ち、辿りつく結論には結論の美が備わっている
どうだ。
もう一度解説を見返してみると「数学的な~」というのも既に使われていたので、もうあきらめます。
とにかく言いたいことは一緒で、本作は美しいということです。美しい推理小説ランキングを作れば本作は必ず上位に入るし、本作の後他の推理小説を読んだら粗探ししかできないんじゃないかというくらいに美しい。美しい美しいばかりでうんざりしておいでだろうがしばらくお付き合いください。
まず解法の美というのは、もちろん謎を解く手順の美しさです。怪しい人物が登場し、謎めいた物証も次々飛び出す中、エラリーはどれもおざなりにはしません。序盤から、タイトルのとおり最重要物証である“靴”がピックアップされるのですが、並行して登場人物たちの隠す秘密にも焦点が当てられます。2つの謎が入り乱れ混迷するさまは、いわば難攻不落の証明問題のように思えるでしょう。しかしながら、一つひとつの謎に論理的な解を得て、事件を構築してみれば、その結末はまさしく結論の美を表しているといえます。それは最後の一文にまで現れており、思わず「証明終了」と呟きたくなるほど。たしかに最後の一手は、ページ上に手がかりは出ていないかもしれません。しかし、手に入る全ての手がかりを勘案し、空白の部分を仮定と想像で埋め合わせる作業も、推理小説を楽しむための醍醐味なのではないでしょうか。
書くのを忘れていましたが、素晴らしいロジックの他に、圧巻のトリックについても少しだけ。
Sが正体を偽りながらも、実の親(容疑者候補J)を救うためにお涙頂戴の告白をすることで、自身を事件から遠ざけ、真の目的を完璧に隠したトリックは見事です。ちなみに、私はJとSの共犯かなー、と思っていました。Sの訪問、しかも実行犯にとって最良のタイミングでの訪問に疑問を持てば、解決は早かったのかもしれませんが、ここはJへのミスディレクションに誘導されてしまったのでしょう。
謎解きメインのパズルミステリが中心とは思いますが、その側面には、しっかりとしたキャラクター設定と、なにより美しく圧倒されるトリックがありました。
素晴らしい作品です。
では!