不自然な死【感想】ドロシー・L・セイヤーズ

発表年:1927年

作者:ドロシー・L・セイヤーズ

シリーズ:ピーター・ウィムジィ卿3

 

粗あらすじ

きっかけは小さな料理屋での他愛もない会話だった。隣席の男から聞いた「不自然な死」について、気紛れ(ウィムジィ)と直感で探偵を始めるピーター卿は、次第に狡猾な殺人者の存在を確信していく。卿は、親友のパーカー警部と、愛すべきピーター卿の聞き込み代理人クリンプスン嬢の協力を得て、犯人を追いこんでいくが……

 

本作は、本格ミステリと呼ぶにふさわしく、謎に包まれたトリック、明らかに思えるが不確定な動機、狡猾な犯人などの要素が詰まっており、登場する脇役たちも物語によく絡んでいます。

しかしながら、前作・前々作に登場した、魅力的な準レギュラーたちが登場せず、バンターでさえもあまり目立った活躍はしていないため、キャラクター描写に長けたセイヤーズの作品の中にあっては少し物足りない感じを受けます。

 

作中では、狡猾で奸智に長けた殺人者として描写されていながらも、物語の立ち回りはどう見ても後手後手な部分があるのもマイナスポイント。

とはいえ、犯人が弄した作の数々は多彩で、それを一つ一つ紐解き、犯人を追いこんでいく過程は面白いでしょう。

また、個々の事象に犯人の計画が隠れており、提示される手がかりや挿入された図等から読者が謎を解く楽しみも十分に用意されています。

 

キャラクター描写で言えば、なんといってもクリンプスン嬢の魅力が物語に十分活かされています。ピーター卿の彼女への信頼は、文脈からひしひし伝わってくるし、読者も同じ感情に到達できるでしょう。

はたしてミステリにおいて、どれだけキャラクター描写の出来が重要視されているのかは、読者次第の部分もあるでしょうが、本シリーズでは決して疎かにしてはいけません。ただ今までのセイヤーズの作品と比べると、ユーモア要素を含むそれら長所ですら、少し目立つ程度で、その他の要素は、よくある推理小説の域を出ない、というのが正直なところです。

 

あとメイントリックの不可能犯罪推しが強すぎて、逆に消去法で解明され易かった印象があります。今の医学では簡単に証明できるのか気になります。もし現代の医学でも解明されないとするなら、これは不変の傑作トリックだとも言えるでしょう。とはいえ、やはりセイヤーズに普通の推理小説は似合わないかもしれません。

もっと尖った作品は、自作以降に期待します。

 

では!