失われた世界【感想】アーサー・コナン・ドイル

発表年:1912年

作者:アーサー・コナン・ドイル

シリーズ:チャレンジャー教授1

 

本作は1912年にあのアーサー・コナン・ドイルによって書かれた初の「SF小説」です。

 

本シリーズは、古生物学者チャレンジャー教授を主人公に据えて、全5作が発表されているようです。その中身は、SFが中心ですが、中には心霊現象を取り扱ったもの(コナン・ドイルは晩年心霊現象に傾倒していた)もあるそうで、コナン・ドイルのチャレンジャーぶり(うまい)を垣間見ることができるでしょう。

 

本作のあらすじは簡単です。

アマゾンの探検を経て、有史以前の生物が闊歩する大地の存在を公表したチャレンジャー教授は、懐疑派な人々を沈黙させるべく、新聞記者マローン(彼の視点で物語は語られる)、冒険家ロクストン卿、そして懐疑派の代表サマリー教授を連れて、再び冒険に旅立つ。

 

そもそも本作は、SFではあるものの、そのジャンル分けは少々困難です。本作のテーマは、(当時の)現代において、地球上のどこかに古代生物が生存していたら、というもので、先史時代を描いているという観点からは歴史小説なのですが、それが想像上・空想上の出来事であるという点ではまぎれもなくSFです。

かといって、複雑で難解なSF用語が出てくるわけでもなく、耳なじみのない未来の技術が登場するわけではありません。出てくるのは、有史以前に地球を支配していた恐竜たちです。

 

本作を読み終わった後、今私たちが得ている知識と比べてみて古臭さをあまり感じないのは、彼らの存在が全人類に認識されこそすれ、科学技術が進歩した100年後の今でも恐竜たちの情報の多くが解明されていないからに違いありません。しかし、残念ながら恐竜たちの情報量の少なさは否めず、猿人やインディアンが登場してからは、さらに影が薄くなっています。

 

一方で、どんなジャンルにも捉われず、一作家としてのコナン・ドイルが書いた小説として見返してみると、登場人物たちのキャラクターはしっかりとたっており、プロットも充実しています。

語り手の新聞記者マローンの性格は首尾一貫していながらも、その心理の変化が細かく描写されているため、登場人物への感情移入もし易いでしょう。

チャレンジャー教授はシャーロック・ホームズとは正反対の豪気な人物ながら頭の回転が早く、侮れません。

ロクストン卿はパーティに必要不可欠な情熱的な探検家で、彼の行動が旅の一行に大きな影響を与えます。

チャレンジャー教授のライバルであるサマリー教授は少々存在感に欠ける印象ですが、彼こそ、この冒険に緊張を緩和を与えてくれます。

そして、ワトスン役のマローンが辿る数奇な運命は、コナン・ドイルらしい筆致で書かれ、人間描写に優れた物語のオチも興味深いものとなっています。

 

明確にハッピー・エンドで終わる形ではありませんが、また新たな冒険への旅立ちが晴れやかに描かれ、爽やかに物語は幕を閉じます。本作は児童書としても抄訳されていることから、親子で別々の翻訳を読んでみるのも面白そうな作品です

 

 

では!