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絶対に原題のまんまが良い【感想】アガサ・クリスティ『邪悪の家』

 

 

邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

邪悪の家 (ハヤカワ文庫―クリスティー文庫)

 

 

発表年:1932年

作者:アガサ・クリスティ

シリーズ:エルキュール・ポワロ6

 

原題の「Peril at End House」の通り、直訳では「エンドハウスの危機(または差し迫った危険)」となっており、古びた邸宅エンドハウスの女主人ニックに降りかかる怪事件に、ポワロとヘイスティングズが挑みます。

 

女史の名作『アクロイド殺し』や『オリエント急行の殺人』などの影に埋もれてはいますが、本作も大胆なトリックと、それを見かけ倒しの大仕掛けにしないだけのリアリティとプロットが随所に光り、名作たちにひけを取らない作品となっています。

人によって感じ方は違うと思いますが、その大胆すぎるトリックがゆえ、ある一点において真相に気付いた(もしくは疑問に思った)読者なら、案外あっさりと真相を見出してしまうかもしれません。

 

事件が起こるまでのあらましでさえ極力表記は避けたいところですが、もし読者がクリスティ作品の常連で、事件の発生・疑わしき人物・ポワロの失態、これらによって引き起こされる数々のミスリードに気付くことができれば、その痕跡が逆に真相に近づけてくれることでしょう。

まぁ、ここまでは推理小説を本格的に解いてやろう!と意気込むミステリマニアなら、という話で、ポワロシリーズを楽しむ方法は、必ずしも犯人を見つけ出すことだけではないはずです。

 

 

邪悪の家』というタイトルの通り、エンドハウスはどこか不気味で言い表せぬ恐怖感を抱かせます。それは登場人物たちも同じで、誰しも秘密を抱えており、口でどれだけ綺麗ごとを並べても、心の中ではなにを考えているかわからない、ポワロでさえも彼らに悩まされます。

 

しかし実際はどうでしょうか?

エンドハウスの見かけは、手入れも十分に施されておらず、陰気な旧家ですが、中に入ればその印象は変わるはずです。

イギリス南部にある景勝地セント・ルーの暖かな陽の光(行ったことはないけど)が差し込み、数々の調度品(と安っぽい家具類)がエンドハウスを飾っていたのではないでしょうか?

彼らに置き換えてみても同じことが言えます。

 

最終章にて、全ての謎が鮮やかに解かれ、あれだけ陰鬱だった邪悪の家をポワロと一緒に出る時、タイトルから受ける印象とは真逆の晴れやかで爽快な気分に浸ることができるでしょう。

 

 

どこを通ってもこのタイトル(邦題)に戻ってきますが、最後にもう一度考察してみましょう。

なぜ邪悪“”家ではなく、邪悪“”家なのでしょうか?

 

 

ここからは国語のお話になります。

ただし独自の解釈も含んでいるため、正しい知識をお持ちの方、間違っていたらご指摘ください。

 あ、そしてネタバレの危険性が大きく増します。イヤほぼネタバレです。

 

 

ネタバレを飛ばす

 

『な』『の』そもそも、この2つ、同じジャンルではなかったんですね。

『の』は助詞は助詞でも格助詞として、人や物の動作や状態を表すとき(彼女のポールダンス、ポールの輝きetc...) に使うのが多いかと思われます。

この場合、使い方は多岐に渡り、前後の言葉の組み合わせで、与える印象や見方も大きく変わってきます。

 

もう1つ並列助詞として使われる事があります。

例えば“小説の表紙”の場合、この『の』は前後の言葉を同じ位置付け、若しくはその一部分として、並列して表す助詞になります。

 

一方、『な』は主に修飾語として用いられ、その場合名詞を飾りつける働きをします。

キレイ、という形容動詞に付くと“キレイなポールダンス”となり、そのあとに続く名詞を飾りつけます。

 

2つの言葉の違いがなんとなくわかってきたところで、次に『邪悪』という言葉と組み合わせてみましょう。

邪悪とは、不正で悪いこと、心がねじ曲がって悪意に満ちたさまを表します。

つまり仮に『邪悪な家』とすると、『家』を修飾する形容動詞となり、“悪意に満ちた家”という意味にとれます。

 

ただし、今作の邦題は『邪悪の家』でしたね。

 

先も述べた通り、『の』には格助詞として、人や物の動作や状態を表す用い方と並列助詞としての用い方がありました。

しかし、なんと!例外的に『な』と同じ修飾語として使う場合があったのです。

 

以下は全ての『の』を混在して使用した例です。

彼女①のポールダンス用②のポール③の輝き

(ポールダンスのことばっかだな、という批判は受け付けません)

 ②は並列助詞③は格助詞、はたして①は?

 

 

①は“ポールダンス用のポール”を修飾する連体修飾語です。つまり、ポールが“彼女の”所有物であることを意味します。

ここまで説明すればもうお判りでしょう。邦題の真の意味が。

みなまでは言いませんが、この邦題かなりギリギリなんじゃないでしょうか。初読でピンときてしまう読者がいないとも限りません。ただし、こういうギリギリな感じ嫌いじゃないです笑

まぁあくまでも、個人的な考察なので、違うかもしれませんけどね。

 

長々とお付き合いくださり、ありがとうございました。

 

 

 

 

 ネタバレ終わり

やっぱりエンドハウスの怪事件、でも良かったなぁ……

では!!