短編集

『知りすぎた男』G.K.チェスタトン【感想】英雄より英雄らしい探偵

THE MAN WHO KNEW TOO MUCH 1922年発表 G.K.チェスタトン作 南條竹則訳 創元推理文庫発行 “知りすぎて何も知らない”男、ホーン・フィッシャーが活躍する連作短編集。提示される謎はどれも政治色が強く、作者チェスタトンの文明/政治批評の精神が存分に詰ま…

『O・ヘンリー短編集(1)』O・ヘンリー【感想】皮肉っぽい筆致すら愛しい

1906年~ 大久保康雄訳 新潮文庫発行 初O・ヘンリーです。 O・ヘンリーという男 O・ヘンリー(本名:ウィリアム・シドニー・ポーター)は、1862年にアメリカのノースカロライナ州で生まれました。3歳で母親を亡くし、父方の祖母の家で暮らすことになったポー…

『怪盗ニック全仕事2』エドワード・D・ホック【感想】ダークヒーローものとしても楽しめる

前作『怪盗ニック全仕事1』 次作『怪盗ニック全仕事3』 「価値のない、もしくは誰も盗もうとは思わないもの」だけを盗むプロの泥棒、ニック・ヴェルヴェットが活躍する全仕事を、作者ホックの発表順に編み直した全集の第二弾。 本作ではちょっと変わり種が…

『ドイル傑作集Ⅱ海洋奇談編』アーサー・コナン・ドイル【感想】傑作集ねえ……

久々のアーサー・コナン・ドイルです。 ドイルが晩年に編んだ集大成的短編集The Conan Doyle Stotiesの中から、Tales of Blue Waterという括りでまとめられた海や水にまつわる短編たちが収められています。 結論から言えば、ミステリとして秀逸な作品はない…

『不可能犯罪捜査課・カー短編全集1』ジョン・ディクスン・カー【感想】小粒がいっぱいで普通に辛い

THE DEPARTMENT OF QUEER COMPLAINTS 1940年発表 マーチ大佐 宇野利泰訳 創元推理文庫発行 巨匠カーの短編は初めて。長編にある重奏的なトリック、怪奇現象の波状攻撃はありません。しかし、山椒は小粒でもぴりりと辛いと言いますか、短い物語の中に輪郭のく…

『ヘラクレスの冒険』アガサ・クリスティ【感想】元ネタを知らずとも十分楽しめる名作

The Labours of Hercules 1947年発表 エルキュール・ポワロ 田中一江訳 ハヤカワ文庫発行 前作『ホロー荘の殺人』 次作『満潮に乗って』 物語は、私立探偵業の引退を目前にしたポワロのアパートから始まる。引退後はカボチャ栽培に勤しむと告げるポワロに、…

『エラリー・クイーンの新冒険』エラリー・クイーン【感想】物語同士のギャップも魅力

The New Adventures of Ellery Queen 1935~1939年発表 エラリー・クイーン 中村有希訳(旧版:井上勇訳)創元推理文庫発行 前作『エラリー・クイーンの冒険』 各話感想 『神の灯』(1935) 今回、新旧の『新冒険』と併せて嶋中文庫の『神の灯』も読みまして…

『ウェルズ傑作集1』H.G.ウェルズ【感想】タイム・マシンはマジでオススメ

1895~1905年発表 阿部知二訳 創元推理文庫発行 本書は、「SF小説の父」とも呼ばれるハーバード・ジョージ・ウェルズによる傑作中編・短編をまとめた日本独自(創元推理文庫)編纂の短編集です。本書には『タイム・マシン』を始めとする6の中短編が、『ウ…

『骨董屋探偵の事件簿』サックス・ローマー【感想】フー・マンチュー以外にも面白いのあるはず、もっと翻訳しませんか?

The Dream Detective 1920年発表 骨董屋探偵モリス・クロウ 近藤麻里子訳 創元推理文庫発行 サックス・ローマーという男 各話感想 『ギリシャの間の悲劇』 『アヌビスの陶片』 『十字軍の斧』 『象牙の彫像』 『ブルー・ラージャ』 『囁くポプラ』 『ト短調…

『怪盗ニック全仕事1』エドワード・D・ホック【感想】初心者のためのミステリ

1966~72年発表 ニック・ヴェルヴェット1 木村二郎訳 創元推理文庫発行 エドワード・D・ホックという男 エドワード・D・ホック(Edward Dentinger Hoch)は1930年にニューヨークに生まれた。幼少期からエラリー・クイーンの作品に魅せられ、高校を卒業す…

『クイーンの定員Ⅰ』エラリー・クイーン【感想】これであなたも一人前

本書を読んで、ようやく、一人前の海外ミステリファンになれた気がしています。『クイーンの定員』は、1845年以降に刊行された最も重要な短編推理小説106作が収められたアンソロジーです。編者は、海外ミステリ黄金期を代表する作家エラリー・クイーン。 そ…

『ドイル傑作集Ⅰ/ミステリー編』アーサー・コナン・ドイル【感想】ドイル流面白さの凝縮版

1888年~1921年 ノンシリーズ短編集(日本独自) 延原謙訳 新潮文庫発行 本書解説で訳者の延原謙氏が述べておられるとおり、世間一般ではアーサー・コナン・ドイルといえばシャーロック・ホームズ、という印象が強いと思われるし、シャーロック・ホームズを…

『探偵術教えます』パーシヴァル・ワイルド【感想】万人にオススメできる自信作

1947年発表 通信教育探偵ピーター・モーラン 巴妙子訳 ちくま文庫発行 ニューヨーク生まれの奇才パーシヴァル・ワイルドが1947年に上梓した、抱腹絶倒の連作短編推理小説。作者の実体験?を元に生み出された素人迷探偵P(ピーター)・モーランが作中を所狭し…

『勇将ジェラールの回想』アーサー・コナン・ドイル【感想】歴史小説愛が爆発

1896年発表 勇将ジェラール1 上野景福訳 創元推理文庫発行 アーサー・コナン・ドイルといえば、シャーロック・ホームズものを始めとする短編ミステリが有名ですが、ドイルが本来書きたかったのは歴史ミステリでした。ホームズが有名になり過ぎた結果書きたい…

『思考機械の事件簿Ⅱ』ジャック・フットレル【感想】失われた短編たちのご冥福をお祈りして

1906年発表 池央耿訳 創元推理文庫発行 今年初の短編海外ミステリです。 「二たす二は四、いつでも、どこでも、ぜったい四!」が口癖の≪思考機械≫ことオーガスタス・S・F・X・ヴァン・ドゥーゼン博士シリーズ。やっぱり古典ミステリを読むと、心が洗われ…

新訳化切望【感想】M.D.ポースト『アブナー伯父の事件簿』

発表年:1918年 作者:M.D.ポースト シリーズ:アブナー伯父 訳者:菊池光 M.D.ポーストという男 探偵役アブナー伯父について 各話感想 『天の使い』(1911) 『悪魔の道具』(1917) 『私刑(リンチ)』(1914) 『地の掟』(1914) 『不可抗力』(1913) …

神たる所以【感想】エラリー・クイーン『エラリー・クイーンの冒険』

発表年:1934年 作者:エラリー・クイーン シリーズ:エラリー・クイーン 訳者:旧訳 井上勇 新訳 中村有希 エラリー・クイーンシリーズの短編集を読むのはこれが初めてです。ずっと旧訳版は所持していたのですが、本書が発表された1934年以前の長編を全部読…

狂人探し【感想】G.K.チェスタトン『詩人と狂人たち』

発表年:1929年 作者:G.K.チェスタトン シリーズ:ノンシリーズ 訳者:南條竹則 定期的にチェスタトンを摂取したくなるのなんなんでしょうか。耐性がないと(慣れないと)読みにくい逆説だらけの構成がどこかクセになっているのかもしれません。 衒学的とい…

ホームズ時代最後の超人探偵【感想】アーネスト・ブラマ『マックス・カラドスの事件簿』

発表年:1914~1927年 作者:アーネスト・ブラマ シリーズ:マックス・カラドス 訳者:吉田誠一 初アーネスト・ブラマということで、先ずはあっさり作者紹介。 彼のことを紹介するのに一番適している単語は「秘密主義」です。どんな集まりにも顔を出さず、要…

ルパンの多面性を堪能【感想】モーリス・ルブラン『ルパンの告白』

発表年:1911年~1913年 作者:モーリス・ルブラン シリーズ:アルセーヌ・ルパン 訳者:堀口大學 年2ルパンの2作目。この感じだと年4は読めそうです。 さすが幾つも邦訳化されているだけって、タイトルも訳者によって様々なバリエーションがあります。当…

変な武器で変な攻撃してくる刺客【感想】C.デイリー・キング『タラント氏の事件簿[完全版]』

発表年:1935~1979年 作者:C.デイリー・キング シリーズ:トレヴィス・タラント 訳者:中村有希 またまたのっけから意味不明なタイトルで読者を混乱させたことを深くお詫びいたします。 しかしですね。全編読んでみて、どんな作品だったか、短く説明すると…

好き、がいっぱい詰まった短編集【感想】オースチン・フリーマン『ソーンダイク博士の事件簿Ⅱ』

発表年:1913~1927年 作者:オースチン・フリーマン シリーズ:ソーンダイク博士 訳者:大久保康雄 各話感想 『パーシヴァル・ブランドの替え玉』(1913)倒叙 犯罪者たちの中でも珍しい“常識家”タイプのパーシヴァル・ブランド氏による犯罪が第一部、その…

新潮文庫オリジナルがオリジナルすぎる【感想】アーサー・コナン・ドイル『シャーロック・ホームズの叡智』

発表年:1892~1927年 作者:アーサー・コナン・ドイル シリーズ:シャーロック・ホームズ シャーロック・ホームズは実に約1年ぶりでした。ただ本作は、実際にアーサー・コナン・ドイルが発表した短編集ではなく、新潮文庫の発刊の都合上カットされた作品を…

今はただ長編を読みたい【感想】アガサ・クリスティ『黄色いアイリス』

発表年:1932~1939年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:ポワロ、パーカー・パイン、ミス・マープル、ノンシリーズ 訳者:中村妙子 コレっていう作品が無いのは惜しいですねえ… 各話感想 『レガッタ・デーの事件』パーカー・パイン よくある紛失事件。で…

クリスティ作品をざっくり型で分類してみた【感想】アガサ・クリスティ『死人の鏡』

発表年:1937年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:エルキュール・ポワロ 訳者:小倉多加志 各話感想 ざっくりクリスティ作品分類 ありきたり型 モンスター型 ロマンス型 アブノーマル型 クリスティ型 本作はエルキュール・ポワロものの中編が4編収められ…

一冊で二度おいしい短編集【感想】アガサ・クリスティ『パーカー・パイン登場』

発表年:1932~1934年 作者:アガサ・クリスティ シリーズ:パーカー・パイン うんこれは良いな~ほんと良いです。 クリスティの短編集は、『リスタデール卿の謎』『死の猟犬』『謎のクィン氏』とちょっとオフホワイト(笑)な作品も含まれる短編集を読んで…

一部ミステリ初心者にとっての関門あり【感想】ドロシー・L・セイヤーズ『ピーター卿の事件簿Ⅱ顔の無い男』

顔のない男―ピーター卿の事件簿〈2〉 (創元推理文庫) 作者: ドロシー・L.セイヤーズ,Dorothy Sayers,宮脇孝雄 出版社/メーカー: 東京創元社 発売日: 2001/04 メディア: 文庫 クリック: 1回 この商品を含むブログ (5件) を見る 発表年:1925~1939年 作者:ド…

解説もまた名作【感想】G.K.チェスタトン『ブラウン神父の醜聞』

発表年:1935年 作者:G.K.チェスタトン シリーズ:ブラウン神父5 ついにブラウン神父シリーズを読破しました。 ただ、このタイミングで、創元推理文庫から新版がどんどん発刊されているので、さらに蒐集欲が掻き立てられますねえ解説が新しくなっているらし…

まるで洋食屋のオムライスのような【感想】マージェリー・アリンガム『キャンピオン氏の事件簿I窓辺の老人』

発表年:1936~1939年 作者:マージェリー・アリンガム シリーズ:アルバート・キャンピオン氏(日本独自編纂) 本書を書いたマージェリー・アリンガムは、クリスティやセイヤーズらとともに英国女流推理作家ビッグ4と呼び讃えられるほど高名な推理作家です…

世にも奇妙な短編集【感想】ドロシー・L・セイヤーズ『ピーター卿の事件簿』

発表年:1928~1938年(日本独自編纂) 作者:ドロシー・L・セイヤーズ シリーズ:ピーター・ウィムジィ卿 ちょっとねぇ本作は意表を突かれたというか、予想外だったというか、良い意味でしっかり裏切られた短編集でした。 そもそも日本独自に編纂された短編…