フレンチ警部

『フレンチ警部の多忙な休暇』F.W.クロフツ【感想】警察24時が先か、クロフツが先か

FATAL VENTURE Fatal=致命的な Venture=(金銭的にリスクの高いbusiness)投機、事業 ですから、『死をまねく事業』というところでしょうか 1939年発表 フレンチ警部19 中村能三訳 創元推理文庫発行 前作『フレンチ警部と毒蛇の謎』 次作『黄金の灰』 クロフ…

『フレンチ警部と毒蛇の謎』F.W.クロフツ【感想】倒叙のようで倒叙でない

ANTIDOTE TO VENOM 1938年発表 フレンチ警部18 霜島義明訳 創元推理文庫発行 前作『シグニット号の死』 次作『フレンチ警部と多忙な休暇』 三大倒叙の一つと呼ばれる『クロイドン発12時30分』を生み出して以降、クロフツの倒叙に対する興味はしばらく色褪せ…

『シグニット号の死』F.W.クロフツ【感想】フレンチ警部に旅をさせてやってくれ

THE END OF ANDREW HARRISON 1938年発表 フレンチ警部17 中山善之訳 創元推理文庫発行 前作『フレンチ警部と漂う死体』 次作『フレンチ警部と毒蛇の謎』 フレンチ警部シリーズも第17作になりました。『ヴォスパー号の喪失(遭難)』 『船から消えた男』『フ…

『フレンチ警部と漂う死体』F.W.クロフツ【感想】名作のポテンシャルはあり

Found Floating 1937年発表 フレンチ警部16 井伊順彦訳 論創海外ミステリ 前作『船から消えた男』 次作『シグニット号の死』 ネタバレなし感想 本作のテーマは王道中の王道、富豪の一家に巻き起こる親族間の争いです。人生の晩年に差し掛かり気力体力ともに…

『船から消えた男』F.W.クロフツ【感想】フレンチ警部は幸運

1936年発表 フレンチ警部15 中山善之訳 創元推理文庫発行 原題「MAN OVERBORD!」とは、船乗りが船からの落水事故に際し発する定型句のようです。訳すと「誰か船から落ちたぞ!」といったところでしょうか。そして、これがタイトルということは、本書の事件の…

『ヴォスパー号の喪失(遭難)』F.W.クロフツ【感想】地道さが奏功したりしなかったり

1936年発表 フレンチ警部14 訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ発行 本書はフレンチ警部シリーズの中でも、かなり入手難易度の高い一冊。早川書房によってポケミス版(昭和32年)と文庫版(昭和56年)で発行されて以来復刊も無く、特に文庫版はAmazonのマケプ…

『ギルフォードの犯罪』F.W.クロフツ【感想】等身大で原寸大の身近なミステリ

1935年発表 フレンチ警部13 前作『サウサンプトンの殺人』 中山善之訳 創元推理文庫発行 宝石商ノーンズ商会の役員会議から始まる本書は、作者F.W.クロフツがアリバイや鉄道に並んで得意とする企業犯罪がテーマの骨太な一作。 関係者の死と大量の貴金属の盗…

丁寧な仕事してます【感想】F.W.クロフツ『サウサンプトンの殺人』

発表年:1934年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部12 訳者:大庭忠男 染みわたるわあ~、砂漠で飲むお水くらい染みわたる。アクの強いカー作品を読んだ後ということもあって、真っ直ぐな作品に出会うとすいすい読めてしまいます。 今日紹介するのは…

付録:倒叙寸評【感想】F.W.クロフツ『クロイドン発12時30分』

発表年:1934年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部11 訳者:加賀山卓朗 本書の読了を持って三大倒叙ミステリをすべて読破したわけですが、どうもノってこない一作。 「倒叙」とはいえ、まず最初に殺人が描かれるってのは『殺意』や『叔母殺人事件』…

絶妙な配合比率で生み出された力作【感想】F.W.クロフツ『ホッグズ・バックの怪事件』

発表年:1933年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部10 訳者:大庭忠男 フレンチ警部シリーズもついに10作を突破しました。ポワロシリーズで言えば『雲をつかむ死』(『ABC殺人事件』のひとつ前)なので、ミステリ作家としても中堅になり油の乗った時…

漢(おとこ)臭いミステリ【感想】F.W.クロフツ『死の鉄路』

発表年:1932年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部9 訳者:中山善之 本書はとにかく漢臭い。ただ、夏場の満員電車のような不快な汗臭さのことでありません。 舞台は「十月もすえ」のイギリス北部。鉄道の見習技師クリフォード・パリーなる三十二歳…

クロフツにしては珍しい人間ドラマ【感想】F.W.クロフツ『二つの密室』

発表年:1932年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部8 訳者:宇野利泰 本作は、父と母を若くして亡くした苦労人アンがフレイル荘に勤め事件に遭遇するまでのⅠ部、フレンチ警部が捜査を開始し、事件が新たな展開を見せるⅡ~Ⅳ部に分かれており、クロフ…

クロフツお得意の戦術に嵌る【感想】F.W.クロフツ『英仏海峡の謎』

発表年:1931年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部7 訳者:井上勇 粗あらすじ 英仏海峡間に漂うヨットには不穏な血だまりが残っていた。ヨットはどこから来て、どこへ行こうとしていたのか。また、ヨットで何が起こったのか。フレンチ警部が捜査に…

会心の一撃が当たるかどうかが問題【感想】F.W.クロフツ『マギル卿最後の旅』

発表年:1930年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部6 訳者:橋本福夫 裏面の解説には、 著者の作品の中でも一、二を争う名作 と評されていましたがどんなもんでしょう。 タイトルに「旅」が入ってるため、これはまたフレンチ警部が「捜査」と称して…

これはわりとまじで黒フツ【感想】F.W.クロフツ『フレンチ警部と紫色の鎌』

発表年:1929年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部 訳者:井上勇 粗あらすじ 映画館の切符売り場で働く娘がフレンチ警部の元に助けを求めてやってきた。なにやら良からぬ犯罪に巻き込まれているらしい。最初は冗談半分に聞いていたフレンチ警部だっ…

シンプルを通り越した地味さ【感想】F.W.クロフツ『海の秘密』

発表年:1928年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部4 訳者:向後英一 本作はF.W.クロフツが創造したシリーズ探偵フレンチ警部の第4作目なんですが、いかんせん手に入り難い… 全然新訳じゃなくても良いと思うので、復刊して是非多くの人に手に取って…

あなたの食わず嫌いは本作で治る【感想】F.W.クロフツ『スターヴェルの悲劇』

発表年:1927年 作者:F.W.クロフツ シリーズ:フレンチ警部3 今まで『ポンスン事件』を除く、クロフツのノンシリーズもの3作と、フレンチ警部ものを2作順番に読んできました。 読む度にクロフツの新たな魅力と欠点に気付かされるのですが、本作ではクロフ…