ジョン・ディクスン・カー

『かくして殺人へ』ジョン・ディクスン・カー【感想】ド直球のラブコメがど真ん中に直撃

And So to Murder 1940年発表 ヘンリ・メリヴェール卿 白須清美訳 創元推理文庫発行 前作『読者よ欺かるるなかれ』 次作『九人と死で十人だ』 登場人物たちが演じる役柄とその関係性が話のミソでもあるので、あらすじは省略しますが、ド直球のラブコメなので…

『不可能犯罪捜査課・カー短編全集1』ジョン・ディクスン・カー【感想】小粒がいっぱいで普通に辛い

THE DEPARTMENT OF QUEER COMPLAINTS 1940年発表 マーチ大佐 宇野利泰訳 創元推理文庫発行 巨匠カーの短編は初めて。長編にある重奏的なトリック、怪奇現象の波状攻撃はありません。しかし、山椒は小粒でもぴりりと辛いと言いますか、短い物語の中に輪郭のく…

『震えない男』ジョン・ディクスン・カー【感想】展開力を楽しむ

THE MAN WHO COULD NOT SHUDDER 1940年発表 ギデオン・フェル博士12 村崎敏郎訳 ハヤカワ・ポケット・ミステリ―525 前作『テニスコートの殺人』 次作『連続殺人事件』 ネタバレなし感想 飛びつく椅子、揺れるシャンデリア、曰く付きの幽霊屋敷を買い取った物…

『テニスコートの殺人』ジョン・ディクスン・カー【感想】終わり良ければ全て良し

The Problem on the Wire Case 1939年発表 ギデオン・フェル博士11 三角和代訳 創元推理文庫発行 前作『緑のカプセルの謎』 次作 『震えない男』 “足跡のない殺人”を扱ったギデオン・フェル博士シリーズ第11作。怪奇や密室といったカーお得意の要素が無いの…

『四つの凶器』ジョン・ディクスン・カー【感想】どんな作り方でもカレーは美味しい

The Four False Weapons 1937年発表 アンリ・バンコラン5 和爾桃子訳 創元推理文庫発行 前作『蝋人形館の殺人』 パリ予審判事アンリ・バンコランシリーズ最終作がついに新訳で登場しました。1958年発表のポケミス版が全然手に入んないんですよねえ。この8…

『読者よ欺かるるなかれ』カーター・ディクスン【感想】語彙力崩壊級の問題作

1939年発表 ヘンリー・メリヴェール卿9 宇野利泰訳 ハヤカワ文庫発行 前作『五つの箱の死』 次作『かくして殺人へ』 ネタバレなし感想 めちゃくちゃカッコいいですよねタイトル。響きも良い。「るる」の部分が特に最高です。でもオシャレなタイトルと違って…

『五つの箱の死』カーター・ディクスン【感想】牛乳パズルみたい

1938年発表 ヘンリー・メリヴェール卿8 西田政治訳 ハヤカワポケットミステリー発行 前作『ユダの窓』 次作『読者よ欺かるるなかれ』 テーブルを囲む4人の男女。3人が苦しみ、1人は死んでいる。衆人環視の中盛られた毒、血の滴る仕込みナイフ、忽然と消…

『毒のたわむれ』ジョン・ディクスン・カー【感想】カー初期にしかない勢いがある

1932年発表 ノンシリーズ(パット・ロシター) 村崎敏郎訳 ハヤカワポケットミステリ 前作『緑のカプセルの謎』 カーのノンシリーズものは久々です。探偵は、ギデオン・フェル博士やヘンリー・メリヴェール卿に先んじて登場するパット・ロシター青年。語り手…

『緑のカプセルの謎』ジョン・ディクスン・カー【感想】二打席連続ホームラン

1939年発表 ギデオン・フェル博士10 三角和代訳 創元推理文庫発行 ギデオン・フェル博士シリーズ第10作は、摩訶不思議な毒殺事件がテーマの優れたフー&ハウダニットミステリ。前作『曲がった蝶番』(1938)を“ホームラン級”と称しましたが、二打席連続のホー…

『曲がった蝶番』ジョン・ディクスン・カー【感想】ホームラン級の一作

1938年発表 ギデオン・フェル博士9 三角和代訳 創元推理文庫発行 ギデオン・フェル博士シリーズはこれで9作目になりました。少しだけおさらいをしておくと、彼の初登場作は『魔女の隠れ家』(1933)当時は“辞書編纂家”という肩書でしたが、その後はロンドン…

インパクト良し読後感悪し【感想】ジョン・ディクスン・カー『死者はよみがえる』

発表年:1937年 作者:J.D.カー シリーズ:ギデオン・フェル博士8 訳者:橋本福夫 粗あらすじ 雪片ちらつく冬のロンドンに青年が一人佇んでいる。冒険旅行の終着点であるホテルの前で彼の前に舞い落ちたのは、雪片と見紛う一ひらの紙片。純白の招待状にいざ…

500ページもいるかな【感想】ジョン・ディクスン・カー『アラビアンナイトの殺人』

発表年:1936年 作者:J.D.カー シリーズ:ギデオン・フェル博士7 訳者:宇野利泰 まずは 粗あらすじ フェル博士の自室に集まった三人の警察官が語るのは、ロンドンの博物館で起こった奇怪な事件の物語。数種のつけ髭と、石炭の粉舞う異様な博物館で起こった…

歴史のお勉強【感想】ジョン・ディクスン・カー『エドマンド・ゴドフリー卿殺害事件』

発表年:1936年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:歴史ミステリ 訳者:岡照雄 歴史ミステリにチャンレンジするのは、ポール・ドハティー『毒杯の囀り』に続いて僅か2回目。しかも今回は同じ歴史ミステリでもちと違います。 『毒杯の囀り』は1377年…

ベスト・オブ・バンコラン【感想】ジョン・ディクスン・カー『蝋人形館の殺人』

発表年:1932年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:アンリ・バンコラン4 アンリ・バンコランものは約1年ぶりでした。前作『髑髏城』は、ドイツの古城を舞台に、禍々しい雰囲気がダイレクトに伝わってくる作品で、仏独の二大探偵同士の推理合戦にも…

『ユダの窓』カーター・ディクスン【感想】ハウダニットの極致

1938年発表 ヘンリ・メリヴェール卿7 高沢治訳 創元推理文庫発行 前作『孔雀の羽根』 次作『五つの箱の死』 今年最後の海外ミステリ感想記事になりそうです。でも最後に、本作を紹介できるのは嬉しかったりして… というのも海外ミステリ界に燦然と輝く傑作…

アタリハズレというかテンションの違い【感想】カーター・ディクスン『孔雀の羽根』

1937年発表 ヘンリ・メリヴェール卿6 厚木淳訳 創元推理文庫発行 前作『パンチとジュディ』 次作『ユダの窓』 カーの作品は当たりハズレが多いとよく聞きます。 たしかにそういう一面もあると思います。 なんだこれ、みたいな。 え?正気?みたいな。 結果…

断然ひとつ前の作品からオススメします【感想】カーター・ディクスン『パンチとジュディ』

1936年発表 ヘンリ・メリヴェール卿5 白須清美訳 創元推理文庫発行 前作『一角獣の殺人』 次作『孔雀の羽根』 「カーって面白いの?」この本を手に取って、そう思ったあなた。そんなあなたにこそ、この小説を読んでもらいたい! 私が今回手に取ったハヤカワ…

おいおいルパンかよ→誠に申し訳ございませんでした【感想】カーター・ディクスン『一角獣の殺人』

1935年発表 ヘンリー・メリヴェール卿4 田中潤司訳 創元推理文庫発行 前作『赤後家の殺人』 次作『パンチとジュディ』 今年度の下半期は、カー作品を読み漁っています。傑作と呼ばれる『ユダの窓』に向けてまっしぐらです。 だから、それまでの数作はサラッ…

ギロチンの刃の切れ味に劣らないH・M卿の名推理【感想】カーター・ディクスン『赤後家の殺人』

1935年発表 ヘンリー・メリヴェール卿3 創元推理文庫発行 前作『白い僧院の殺人』 次作『一角獣の殺人』 粗あらすじ 「部屋が人間を殺せるものかね?」そんな摩訶不思議な問いかけを発端に、テアレン博士は、曰くつきの“ギロチンの部屋“を有する実業家の家を…

密室の使い方が冴えている【感想】カーター・ディクスン『弓弦城殺人事件』

発表年:1933年 作者:カーター・ディクスン(J.D.カー) シリーズ:ノンシリーズ 粗あらすじ 甲冑を着た幽霊が現われるという弓弦城には、熱狂的な古武具の収集家レイル卿とその一家が住んでいる。弓弦城では幽霊騒ぎ以外にも、外聞はばかるスキャンダルや…

バランスのとれた絶妙な中編ミステリ【感想】ジョン・ディクスン・カー『第三の銃弾』

発表年:1937年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ノンシリーズ まずは 粗あらすじ 退官した老判事が自室で射殺された。撃たれて間もない銃を握りしめて呆けていたのは、かつて判事に極刑を命じられた男だったが、判事の命を奪った銃弾は男が持って…

トリックの大渋滞につき注意【感想】ジョン・ディクスン・カー『三つの棺』

発表年:1935年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ギデオン・フェル博士6 粗あらすじ 超自然的な現象を解き明かすことにかけては著名なグリモー教授のもとに、突如一人の奇術師が現われた。彼が残した「三つの棺」という不吉な言葉と脅迫めいた文句…

見取図はいらないけど間取図だけは欲しい【感想】『死時計』ジョン・ディクスン・カー

発表年:1935年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ギデオン・フェル博士5 あらすじを書くのも億劫になるくらい、展開がややこしい…時計職人の家で不審者が不思議な兇器で死ぬ。これくらいしか確かなことが言えません。 カーのやりたかったこと、つ…

珍味ミステリ現る【感想】ジョン・ディクスン・カー『髑髏城』

発表年:1931年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:アンリ・バンコラン3 先に粗あらすじ 《謎探偵の推理過程》 本当に勝手ですが、自分の中で本作は、病みつき系珍味ミステリに分類されました。 というのも、初めの数章は、髑髏を模した城【髑髏城】…

笑いをミスディレクションに活かした稀有なミステリ【感想】『盲目の理髪師』ジョン・ディクスン・カー

発表年:1934年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ギデオン・フェル博士4 巨匠カーの作品中、もっともファルスの味が濃いとされる これは本書の裏表紙や中表紙に書かれた紹介文の抜粋です。 実は私自身今一つファルスという意味を掴みきれていない…

火刑法廷【感想】ジョン・ディクスン・カー

発表年:1937年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ノンシリーズ このブログを初めて間もない頃、アガサ・クリスティの『アクロイド殺し』の感想を書いた記事の冒頭で、最も高名な推理小説はなにか?という問題に触れ、クロフツの『樽』やクイーンの…

剣の八【感想】ジョン・ディクスン・カー

発表年:1934年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ギデオン・フェル博士3 まずは 粗あらすじ ポルターガイストが出ると噂されるスタンディッシュ大佐の屋敷で犯罪研究家の主教がご乱行。その主教の予告通り、隣家でとてつもない謎を孕んだ事件が発…

『白い僧院の殺人』カーター・ディクスン【感想】足跡のない殺人の代表格

1934年発表 ヘンリ・メリヴェール卿2 創元推理文庫発行 前作『黒死荘の殺人』 次作『赤後家の殺人』 本作最大の特徴と言えばもちろん、“足跡のない殺人”でしょうか。 ≪白い僧院≫と呼ばれる歴史ある建物の別邸で発見された死体を巡る不可能犯罪は、単純な“雪…

恐怖が時代を超えてやってくる【感想】カーター・ディクスン『黒死荘の殺人』

1934年発表 ヘンリ・メリヴェール卿1(通称H・M) 創元推理文庫発行 次作『白い僧院の殺人』 探偵役のH・M卿は、陸軍省情報部長を務め、風来や口調などからは、どこか破茶滅茶で型破りな人物に思えます。 また、デビュー作でありながら登場するタイミングは…

ロンドン塔の出汁は取れず【感想】ジョン・ディクスン・カー『帽子収集狂事件』

発表年:1933年 作者:ジョン・ディクスン・カー シリーズ:ギデオン・フェル博士2作 まずは 粗あらすじ ≪いかれ帽子屋(マッド・ハッター)≫と呼ばれる異常な連続帽子盗難犯がロンドンに現れた。その魔手はエドガー・アラン・ポーの未発表原稿を所持する蒐…